第10章 near &far
青峰君はよくギュってしてくれる。
挨拶みたいな軽いハグのときと、包み込むように優しく抱きしめてくれるときと、すっごくしっかりギュって抱きしめてくれるとき。
どれもすごく好きで安心する。
あたしは青峰君を好きだし、青峰君が何もしないって思ってるから抱きしめられるのも一緒に寝るのも好きだけど、他の人とって思ったら絶対に無理。
大我と辰也はしっかりぎゅってしてくることはないし、もうずっとハグをしてるからしない方が不自然だけど、青峰君とは知り合って半年なのにしょっちゅうハグしてる。
あたしはパーソナルスペースが広いせいか仕事以外で親しくない人と接近するのがあんまり好きじゃなくて人込みも苦手
「青峰君ってハグ好きだね」
「人によるな」
「そうなの?」
「お前をハグすんのはすげぇ好き」
「何それー。あたし抱き枕じゃないんだけど」
本当は嬉しい癖にまた可愛げのないことを言う本当にかわいくないあたし。
「こんないい抱き枕があんならとっくに買ってる」
「あはは!きっと売れ残って在庫処分で売られてる」
恋愛を自分から避けてきたとは言え、現にあたしは売れ残っているからこの歳まで彼氏がいたことがなくて、在庫処分すらできないかもしれない。
「枕なら俺が全部買い取る。でもお前は一人しかいねぇし代わりなんていねぇんだからもっと自分に自信持て。俺はお前をすげぇいい女だと思ってる」
嬉しいけど…
「………じゃない…」
「何?もっかい」
「あたし、全然そんなじゃない。見た目も中身も何にも取り柄がない」
そう。あたしは自分の見た目が嫌いでメイクを始めた。
メイクでいくら外見を取り繕っても中身はズルくて弱いままだった。
10年前のことがなければ今よりも自分を好きだったかもしれないけどあの出来事はあたしの自尊心を粉々にした。
人としても女としても失格だと言われてる気がした。
生きる理由が欲しくてメイクに没頭したことと、運よくパットが弟子に迎えてくれたからあたしは投げ出さずにいられた。
大我と真太郎と玲子先生とパットがいなかったらきっとあたしは生きることをやめていた。
「お前が自分をどう思ってようが、俺はお前を尊敬してる。お前が自分の取り柄を見つけられねぇなら俺が見つけて教えてやる」
力強く抱きしめられて、泣くつもりなんてなかったのにこらえきれなくて涙が頬を伝った