第10章 near &far
side青峰
いつもより風呂の時間が長くてまた寝てんのかと心配になったけど、時々物音がしてたから出てくるのを待ってると、すげぇこっそりドアを開けて挙動不審に出てきたから声をかけたら、あからさまにビクッとして向かいのソファの奥で突っ立ったまま焦ってペラペラと捲し立ててくる。
バラがいい匂いだったとか言ってたから頭についてるのが花びらだってことは分かったけど、何をそんなに焦ってるのか全く分からねぇ。
頭に花びらがついてることに気づいてねぇから、それを取るために耳の上の髪の毛に触れるとくすぐったかったのかピクリとしたみさきを大人しくさせて、髪に少し絡まっていた花びらを取って見せたら遊びすぎたとか言って笑ってるけどすげぇぎこちねぇ。
しかも出てきたときからガウンの首元をぎちぎちに閉じてて、苦しくないのか聞こうとしたらめちゃくちゃ動揺して後ずさるから、距離ができて今まで見えなかった足元が見えて、いつもなら着てるはずのルームウエアがなくて細い脚が見えた。
驚いてつい、下着てねぇのかなんて聞いちまったからさらに動揺して俺と距離を取ろうとしたけど、馬鹿でかいピアノに阻まれてそれ以上下がれなくなって目を泳がせてる。
多分バスルームに持って行き忘れて着られなかったんだってことは分かったけど怖がってんのか硬直してる。
その格好でいられたら余計にヤバいし湯冷めしちまうから「着替えに行け」って言うために近づいたら思いっきり拒否された。
「ヤダヤダ!こっち来ちゃダメ」
すげぇグサッときたけど、ここでそのまま俺が引いたら後で気まずくなるだけだ。
一気に距離を縮めてみさきを抱きしめて、何もしねぇっていうもう何度目かになる約束をすると少し落ち着いて静かになって、小さく震えながら深呼吸してる。
ゆっくり背中を撫でてると呼吸が整ったのか口を開いた。
「違うの。怖かったんじゃなくて自分が間抜けすぎて恥ずかしかっただけなの…」
「ルームウエアあるか?」
「キャリーに入ってる」
「体が冷える前に着てこい。リビングにいる」
みさきを腕から解放してキャリーの置いてある部屋に入ったのを見てから俺もリビングに戻った。
恥ずかしかっただけとか言ってたけど明らかに怖がってたし若干パニくってた。
今日は別々に寝た方がいいのかもな…