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最愛 【黒子のバスケ】

第9章 優しい嘘


side緑間

みさきが薬を盛られて連れ込まれそうになったことは俺も隠したいと思っていたが、覚えていたらという可能性が捨てきれなかった。

そしてこの記憶を取り戻した時にみさきがどう反応するかも気がかりだった。

一時的な健忘は何かのきっかけで思い出す者とずっと思い出さない者もいる。
みさきが後者であれば問題は無いが…


「だが、万が一覚えていたらどうする」

「寝てる時の記憶なんてねぇだろ。突然眠くなったことを不審がられたら店が間違えて酒を提供したってことにすれば、今忙しいあいつは疲労とアルコールで深く眠っちまったと思うだけで済むだろ」

「そんな浅はかな…アルコールかそうでないかなど飲んだ時点で分かるだろう!」

「それでも…それしか方法はねぇんだ。嘘をついてでもあいつが青峰を好きって気持ちだけは消させたくねぇ。頼む…緑間。今回限りでいい。俺の言うとおりにしてくれ…」

懇願するように絞り出すような震えた声で俺に頼む火神に“できない”とは言えなかった。
こんな弱弱しいあいつはあの時以来でみさきよりも火神が心配になってくる。

「分かった。だが条件がある」

「なんでも聞いてやる」

「お前はバスケに集中しろ。間違っても大乱調など起こすなよ。平常心を忘れるな。それから…青峰にみさきとの距離を縮めさせるんだ」

「は?最初のはいいとしてなんで青峰をせっつくんだよ」

「今みさきの記憶が曖昧だったとしても、何がきっかけでいつ記憶を取り戻すか分からない。その時に片思いだと思い込んでいれば青峰を遠ざけかねない。だが恋人という関係になってさえいれば、それを知っても青峰への気持ちは変わらないはずだ」

これは玲子とも話していたことだった。記憶を取り戻した時にみさきをしっかりと受け止める人がいれば、事実を知ったとしても、精神的な負荷が全く違う。

「それもそうだな。試合でちょくちょく顔合わせてるから焦るように仕向けるわ。うまくできる自信ねーけど」

「火神…お前はいいのか?」

「はぁ…なんでお前まで知ってんだよ。俺はみさきが幸せなら相手は俺じゃなくてもいい。青峰ならみさきを任せられるって確信がある。青峰だから譲った」

「そうか。試合しくじるなよ」

電話を終わらせて桃井と進藤に火神と話した内容を伝えると案の定反対された
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