第9章 優しい嘘
side青峰
マフラーをネロに汚されねぇうちにクロークにしまってからもう一つの包みを手に取るとズシリと重みがあった
巻かれていた緩衝材をとるとスイスの時計メーカーのロゴがあって時計好きな奴なら多分分かるけど好きな奴じゃなきゃ名前すら聞いたことがないかもしれねぇかなり値の張るメゾンのものだった。
腕時計は好きだし俺も何度かレセプションに呼ばれて行ってたから知ってたけどまだ1本も持ってなかった。
嘘だろ…こんなん貰っていいのかよ。
これは一般的な収入じゃ天地がひっくり返っても手が出ねぇ。
袋から取り出して箱を開けると、先月送られてきた冊子で見たクリスマスコレクションのトゥールビヨンリミテッドで、世界で200本とかそんなだった気がする。
それにベルトをオーダーできるカードも一緒に入ってる。
デザインもダイヤとかは使ってねぇシンプルなやつで、メゾンの特徴であるムーブメントが透けてるものでめちゃくちゃいい。
これは普段は絶対ぇできねぇ。
取り敢えず電話で礼がしたかったのに出ねぇからメッセージだけ入れておいた。
つーかお返し考えねぇと…
クリスマスに何か贈るつもりではいたけど試合があって出掛けてられなかったし、明日も明後日も試合だから少し先になっちまうけど絶対ぇ返す。
数時間たって向こうは既に夜中のはずなのに既読にもならねぇし音沙汰もねぇから例の好きな奴と過ごしてんのかとモヤモヤして意味もなくシャワーを浴びたりネロを構ったりしてたらスマホが光ってたから確認したらみさきからだった
声が聞きたい欲求が抑えられなかったけど男といたらまずいと思って(電話していいか?)って入れたらスマホにみさきの画像が映し出されてみさきから電話をしてきてくれた。
あーぁ、ホントみさきっていいわ
緩む口元に力を入れて電話に出ると、この間と同じやり取りをそのままみさきと俺が入れ替わってやってるからつい笑いが出た。
最高だ。マジで可愛い。
どうしたらこんな可愛い女になるのか誰か教えてくれ。