第8章 それぞれの場所
実家に戻って少し休憩してからBOSSにメッセージを入れた
(今日LAに戻ってきました。実家にいます)
仕事を一緒にと言われていて、具体的な内容は聞いてないけど、久しぶりにBOSSと仕事ができると思うとすごく嬉しい
荷物を解いて、買ってもらった物たちを見て思い出が蘇る。
深紅のドレスを掛けてると、あの夜のことが鮮明によみがえって、あたしがモデルをしたって知った時のあのびっくりした顔を思い出して笑みが零れた
いい顔してるって言ってくれた最後のあのページ
撮影のことは今でもはっきり思い出せる。
辛い撮影を乗り切って最後にメイクをさせてくれた時の写真
今より全然技術がないから上手とは言えないんだけど写真を撮る前にきちんとBOSSが修正してくれて…
作った顔じゃなくふとした瞬間にカメラマンが撮ってくれたものだった
『あなたたちはみんな美しく強い。売り上げは全て性犯罪被害者の団体へ寄付することになってるわ。協力してくれてありがとう。感謝してるわ』
そうBOSSが言って撮影を締めくくった。
この本はメイクブックで、色んなメイクが載ってるけど、少し心が疲れてしまった人に対してのメッセージも込められてる。
上がらない雨がないように止まらない涙もないって伝えたいと言ってあたしの泣き顔を表紙にした。
だから最後はあたしの笑ってる顔になった
やっぱりこれがあたしの原点。
これがなければ今メイクとしてやってけていたのか分からない。
メイクになってることは間違いないけどこんなに仕事をもらえるようにはなってなかったかもしれない。
雑誌の買いすぎで怒られた甲斐はあったかな
荷ほどきを終わらせて下に降りるとママがご飯を作ってくれてる。
「もう少しでできるから、テーブルのお花どけて用意してくれる?」
「はーい」
パパは毎月ママにお花を贈る。今月はカサブランカ。
うちの両親はほんとに仲良しであたしがいたってお構いなしにキスしたりハグしたりママを抱き上げたりしてる。
娘のあたしがお邪魔虫になった気分だけど、そういう時はセルジオがあたしの膝に来てくれるから見てない振りする。
パパはママのことが大好きでいつも“ダーリン”って呼んでキスをする。
「ただいま」
玄関が開いてパパが帰ってくると嬉しそうにママが出迎えに行った
「おかえり!」