第2章 直感
俺の言葉になんの反応も示さず、でかい目で俺の目を真っ直ぐに見てる。
吸い込まれるような惹きつけられるような不思議な感覚に、何となく逸らせなくて俺も女の目を見続けた。
目が…すっげぇ綺麗。
黒目が黒とは違げぇ深い色で白目はめちゃくちゃ白い
汚れてねぇって表現以外の言い表し方がねぇ程綺麗な目だった
火神が名前を呼んでも反応は薄くて。心ここに在らずに見えて、本当は怪我をさせたんじゃねぇかと不安がよぎって、本当に痛てぇとこがねぇか聞こうとしたとき、さつきが話しかけた。
さつきの声に突然我に返ったように謝り出して、タキシードのクリーニング代を出すなんて言い出すから笑っちまった。
そもそも俺のタキシードが汚れた事の責任はこいつには一切ない。
ギャルソンが躓かなければ、俺がもう少し力を緩めて引っ張っていればタキシードは別に汚れることはなかったんだから気にすることは何もねぇ。
それでも本当に悪そうに眉を下げて謝る目の前の女を何故かかわいいと思った。
いつもなら、女を見てもなんとも思わねぇ
いつもなら、女が何を着ていてもどうでもいい
いつもなら、女が泣いてたら鬱陶しいとさえ思う
いつもなら、女に怖がられるならそれでよかった
いつもなら、女と目が合おうが何とも思わねぇ
いつもなら、繰り返し謝られたって何も感じねぇ
いつもなら、謝りてぇなんて言葉で待ったりしねぇ
そもそも女を可愛いなんて感じたことねぇ……気がする。
女なんて面倒なだけだ
自分から関わるなんて面倒を引き寄せる以外の何物でもねぇ
ずっとそう思ってきた
だけどさっき咄嗟に体が動いた
この女がやけどしなかったことに心底ほっとする自分が確かにいた。
いくら瞬発力があっても見えてないものはどうしようもねぇ。
けどコーヒーポットが飛んだ時、俺はこの女を見てたから体が動いた。
こいつだから助けたんだ。
俺の直感は絶対ぇ外れねぇ
俺はこの女に惚れる
さつきのアホ面が見えて口が動いてんのに、声は何も聞こえなくて、自分の直感が発するその声だけが自分の中に響いてた。