第7章 近づく距離
side火神
結局俺は個別の打ち合わせと称して連れ出されて、ついてきたエージェントと3人でロビーのカフェに入った
『悪いけど、あなたは外して。タイガと二人で話すことがあるから』
『いえ、契約は全て…』
『あたしの現場なの。いいから外して』
高圧的で独裁的なその口調に、エージェントも我を通すのは間違ってると思ったのか俺に目線で合図して席を立った。
(すぐ呼ぶ。近くにいてくれ)
俺は頭が良くねぇから契約やら交渉やらを自分ですることは一切ねぇ。
(そのつもりだ)
俺のメッセージに即座に返信をくれたのを見てから、機嫌よく毒々しい色のドリンクを飲むジェシカにこっちから話を振った。
『打ち合わせってなんだ?』
『ゆっくりでいいじゃない』
いい訳ねぇ。
いくら女がいても、あんなに男が多い現場にみさきをエージェントなしで放り込みっぱなしにしたくねぇ。
みさきは日本で仕事するようになってから男の中にいることが多くなったけどそれが平気な訳じゃねぇ。
神経すり減らしてやってんだよ
それを知っていながらこんなとこで呑気に休憩なんてしてられるか…
『こっちも予定が立て込んでてな。悪りぃけどすぐ始めてくれ』
『そう?じゃあ、メイクのことなんだけどうちのメイクを使ってくれないかしら?』
やっぱりみさきか…
何か言ってくるならみさきの事だとは思ってたけどこんな早く言ってくるとは、正直すぎて驚いちまう。
『それじゃ契約と違うだろ?それに俺は仕事はするが契約はエージェントに任せてる。エージェントを呼ぶ』
何か言いたそうなジェシカに気づかねぇ振りをして、外で待ってたエージェントに手で合図してさっきの場所に座らせた。