第25章 起憶
どれくらい眠っていたのか分からない
ふと眠りが浅くなった瞬間にブラシの手入れをしていないことを思い出して目を覚ますと青峰君が横にいてくれて、あたしを抱きしめてくれていた
寝てる間中ずっと青峰君の匂いがしてた
優しく包まれてるような気がして、いつもならあの事を思い出すと見る夢も今日は見ることはなかった
気がしたんじゃなくて、本当に抱きしめててくれたからこれ程よく眠れたんだ…
「…ありがとう」
力の抜けてるずっしりした腕から抜け出してブラシの手入れをしようとメイクバッグを開くと、すべてのブラシの手入れが完璧に済まされていてパットのメッセージが入っていた
“ダイキとゆっくりしなさい。あと3日よ。一緒に頑張りましょ”
あたしは一人じゃない
青峰君もみんなもいてくれて、パットもいてくれる
パットからのメッセージを手帳に挟んでからメイクを落とすためにバスルームに入ると案の定まぶたがぷくぷくに腫れてしまっていた
長時間メイクをしたまま眠ってしまったことで肌も疲れてるし、少し念入りにお手入れをしようとスチーマーとシートマスクを用意して奥の部屋に入った
バスルームでもいいけどカチャカチャ音をさせて青峰君を起こしたくない
扉を閉めて間接照明だけを付けてゆっくりと手入れを始めた
クレンジングをして洗い流して黒曜石の成分が入ったシートマスクを張り付けて
高すぎる鼻のせいで小鼻の部分までシートがいきわたらないからそこには美容液を含ませたコットンを当てて15分
シートマスクをしてる間は何も考えずにソファやベッドに仰向けに寝転がって肌がすべすべになった自分を妄想してゆっくり過ごす
そのまま寝落ちするのはご法度だけど、この少しの休息があると寝る用意を完了させるまでの体力を回復させられる
リビングよりは小さいけどあたしが一人寝転がるくらいなんてことないカウチに体を預けて、自分だけに聞こえる音で小さく曲を流した
4曲で大体15分だから、その時々の気分で聞けるように4曲のミュージックリストをいくつか作ってある。
今日は静かなラブソングに決めた
青峰君を好きになるまでラブソングすら苦手で聞くことがなかったけど今は少しだけ聞くようになった
女性アーティストの歌う恋人を焦れる歌詞が好きで自分と少しダブらせる時がある