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最愛 【黒子のバスケ】

第25章 起憶


行ってらっしゃいのキスは相変わらずあたしに元気をくれた

待ち合わせより少し早く着いて奥の席に座りたいことを伝えると快くそうさせてくれた


カクテルタイムに入ったばかりのラウンジは薄暗くてあたしの泣きはらした顔も隠してくれる気がした


ギャルソンにあったかい紅茶をもらって口をつけたところで中野チーフも席に座った


「今日は、大変申し訳ございませんでした」

「…見て見ぬふりを続けたこちらの責任です。本来であればメイクを黒須さんにさせること自体がイレギュラーでそれを断らなかった当社に全責任があると思っています」


そう言ってはくれているけど、受けると決めたのはあたし以外の誰でもない。
受けたのであればそれは責任を持ってやり通さなければいけなかった

だけど今一番重要なのはそこじゃない
お互いに責任を感じているということを言い合う意味は、多分ない

だから今は、あたしが現場を乱したことは紛れもない事実でそれについてしっかり謝罪する

「それでも、現場を混乱させたことは事実です。申し訳ありませんでした」

「…仕事にプライベートを持ち込まないあなたをあたしは純粋にすごいと思うし見習わせたいスタッフは山程いる。だけどこの現場はチームでしょ?あなたもあたしのチームの一員。個人的なことだろうが何だろうが理不尽なことを言われてあなたの業務に差し支えるならそれはちゃんと相談して。あたしたちはチームでしょ。一丸となってこのプロジェクトを成功させようって、ずっと一緒にやってきたでしょ?だからアイディアを出すだけじゃなくて、困ったことはなんでも言って。進藤でも桃井でも、もちろんあたしでも」



落ち着いた声であたしを諭してくれる中野チーフは少しママに似ているような錯覚を覚えた

さつきと美緒が全幅の信頼を置く中野チーフは男勝りだけど女性特有の繊細で細かい心遣いをしてくれる人だった


「ありがとうございます。明日からは相談させてください」

一人でなんの問題も起こさず解決することができれば一番いいことは分かってる

だけど今のあたしにはその力量も器もない


だから周りを頼ってる

そしてそれは悪いことでも弱いからでもない


今この現状をどうにかしようとするための手段であり正しい方法でもある

円滑に現場を進めるなら一人で抱え込まないことは何よりも大切なことなのかもしれない
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