第24章 ヴェラザノ・ナローズ・ブリッジ
何もしてないって…
あたしと青峰君の考える“何も”のレベルって全然違うの?
青峰君にとっての“何も”って何?
青峰君は前泊まった時はホテルのボディソープだったけど、最近は黄瀬君がくれたのが気に入ってるからって今回もそれを持ってきて使ってて、それがすごくいい匂いだった。
ムスク系の爽やかな香りで、さっき感じたフローラル系の甘い香りとは正反対の香り。
一緒にお風呂に入ったの?
一緒にお風呂に入るのはなんでもないことなの?
お掃除を頼んだのか、バスルームは綺麗だったけど、ここに一緒に入ったのかと思ったらまた涙が溢れた。
泣き止まなきゃ……
そう思えば思うほど涙は流れた
朝、わがまま言って困らせて、青峰君に我慢させたのはあたしだった。
あたしがお誕生日の時お風呂一緒に入るの嫌だって言ったから?
一緒にお風呂入ったら……続きがあったんじゃないの?
悪い思考はどんどん深くなって、抜け出せない泥沼にあたしを引きずり込んで、息ができない程苦しくなった。
信じたい気持ちと、この状況が示す現実があたしの中でせめぎ合っていて、青峰君と話さないことには事実が分からないことは理解していても、それを切り出す勇気がない。
青峰君が嘘をつかないことを分かっていても、この状況を自分に都合よく解釈できるだけの理由を見つけることが出来なかった。
仕事用のメイクだったから足してお出かけ用にしようと思ってたけど、泣いたせいでボロボロで、クレンジングをしなきゃいけないのに、涙で濡れてクレンジングもできない。
どうすることもできないまま時間だけが過ぎてあたしがバスルームに入ってからすでに30分が経っていた
とにかく出なきゃ
青峰君とちゃんと話をしなきゃ……
でもこんな顔で出て行ったら絶対みんなに心配かけちゃう
解決策が見つからなくて八方ふさがりのまま時間はどんどん過ぎて、さつきたちにメッセージを入れようと思ったのにスマホすらバスルームに持ってきてない
涙が止まらないまま水で顔を洗ってタオルで押さえて、また涙が出て水で洗ってを何度も繰り返していると、ついにドアがノックされた。