第24章 ヴェラザノ・ナローズ・ブリッジ
このだだっ広いNYで何万台ものタクシーがある中、この1台に乗ったのはきっと運命。
『12月に会いましょうって娘さんに伝えてください』
『あぁ、必ず。君も頑張って』
鬱々とした気分を吹き飛ばしてくれた運転手に、心の中でお礼をして車から降りた。
やっぱりあたしはメイクで自分を証明し続けたい。
メイクはどんな時でも人を輝かせるものだって信じてる。
撮影をするためのスタジオに入って他のスタッフに挨拶をすると、予定よりもまだ全然早いのに黄瀬君がもう来ていた。
「みさきっち!お疲れ」
「お疲れ様です。早いですね」
「ちょっと渡すものあって、メッセージ既読になんないから心配したっス」
しまった。
運転手さんとの思いがけない会話に夢中になって、スマホのチェックしてなかった。
「すみません。わたし昨日何か忘れ物してましたか?」
「違うっスよ。あの人からの差し入れ。朝食食べ損ねたんスよね?」
うそ…
黄瀬君が差し出してくれたのはペニンシュラのホットサンドで、受け取るとまだ温かい。
行くところがあるって言ってたから青峰君だって忙しかったはずなのに…
「ありがとう」
「びっくりしたッス。いきなりホテルの人来てこれ渡されて、黒須様にお渡しくださいとか言われて、連絡も着かないし。でもちゃんと渡せてよかったっス」
黄瀬君も青峰君も本当にありがとう
朝は食欲あんまりないとか思ってたけど今はもう腹ペコ
スタジオの隅っこに座って、まだ温かいそれを開くと、あたしの大好きなエビと卵のホットサンドだった。
青峰君はあたしが好きだって言ったものを本当によく覚えててくれる。
タクシーでの嬉しい出来事とこのホットサンドで心が温められて、嬉しくて泣きそうで、カレンに言われたことなんてすっかりどうでもよくなった。
味わって食べてチェックしてなかったスマホを見ると、青峰君と黄瀬君からそれぞれメッセージが入ってた
(黄瀬から食い物もらってちゃんと食えよ)
(青峰っちから差し入れ預かってるからスタジオで渡すっス)
黄瀬君には会えたから青峰君にはメッセージを入れた。
(サンドイッチありがとう。今食べました。ごちそうさまでした。仕事終わったら戻ります)
相変わらず可愛くない
でもすっごくおいしかったよ。
本当にありがとう