第24章 ヴェラザノ・ナローズ・ブリッジ
タクシーの運転手さんがなんであたしを…?
あたしはこっちでは少し顔を出してはいるけど、街で見かけて騒がれるような有名人ではない。
メイクが大好きとか、あたしのファーストメイクブックを持ってるとか、前に病院でメイクをしたとか、そういう人ならいるけど、この人はパパとそんなに変わらない年齢の男性で、自分でメイクした記憶もないからどっちでもない。
『俺はこんな目立たない仕事だけど、娘はモデルなんだ。君、ショーの現場で誰もメイクをしなかった黒人モデルにメイクしただろ?』
『……あ、しましたね』
たくさんのモデルが出演する複合的なファッションショーで、メイクもチームが組まれてあたしもそこにいた。
プレメークはなかったけど、当日はメイクチーム全員でモデルを順番に仕上げる忙しい現場だった。
そこにいたアフリカ系のモデル。
手の空いてるメイクになぜか自分から声をかけていて、それなのに誰もしなかった。
だからあたしがやった
白人至上主義は完全には消えてない
1人が言い出せばそれに続く人がいて、1人2人と増えれば罪悪感も薄れて差別を正当化する。
あたしもメイクチームでは唯一の東洋人系だったから、一部の人からはコネだって言われてハブられて、ちゃんと資料をもらえなくて運営に自分で取りに行った。
確かもう4年前かな……
『娘はあの後VSの契約モデルになった。君のメイクしてくれたあのステージで声がかかった。一緒に写真撮ったの覚えてないか?』
『覚えてます』
それに、契約モデルになったことも知ってたし、12月のあたしの仕事はVSのステージだから、会えるかなってちょっと期待もあった。
『今でもそれを宝物にしてる。スマホだって、恋人の写真じゃなくてそれを待ち受けにしてるんだ。君のおかげだ。ありがとう』
『そんな風に言っていただけて嬉しいんですが、それは違います。彼女の努力の結果だと私は思います』
『12月また一緒に仕事ができるって喜んでたよ』
やっぱり会えるんだ
美緒が去年引退したカリスマ的な存在だったモデルが大好きだったから、去年のは何度も見てたけどそこでも彼女はランウェイを歩いてた。
差別撲滅を掲げる企業の顔として、堂々とした笑顔で輝いていた
道路は混んでいたのに、ホテルを出た時は最悪の気分だったのに、今のあたしはもうそんな事どうでもいいほど嬉しかった