第24章 ヴェラザノ・ナローズ・ブリッジ
カレンはあたしを攻撃することで何を得るのかあたしには分からない。
カレンだってあたしに何を言われたって引こうとしないんだから、あたしだってそれと同じだってどうして理解しないのか不思議でしょうがない。
人に言われたからって諦められるようなら、パパに反対された片思いの時点でとっくにやめてる。
誰に何を言われたって好きな気持ちは変わらない。
人に言われてやめるくらいなら、最初から付き合ったりしない。
人に言われてやめられる程度なら、恋愛しないって決めてたあたしの気持ちはそもそも動かない。
カレンのメイクを仕上げて、髪に艶が出るように少しだけ熱をかけて、まとまりはあるけどどこか隙がある綺麗な寝起きのヘアを整髪料は使わずに仕上げた。
『以上でヘアメイクの全ての工程が終了となりますが、仕上がりに気になる点やお気に召さない点はございますか?』
『ないわ』
『それでは、ただいまのお時間で請求書をお作り致しますので2週間以内でのお支払いをお願いいたします。ご希望がありましたらカードでの清算もお受けできますのでいつでもおっしゃってください』
計っていた時間と早朝料金と出張料金、それに技術料
確かにあたしは安いメイクではない。
安くない料金を支払ってでも私を使いたいと思ってくれる人達の期待を裏切らない仕上がりを、あたしは提供しなくちゃいけない。
たとえそれが世界で一番嫌いなあの男だったとしても。
あの男への憎悪に比べれば、腹は立つけどカレンなんて可愛いものだと思えた。
請求書にすべてを書き込んで封筒に入れてカレンに差し出した。
『こちらが本日のご請求書でございます。ご指名ありがとうございました』
これをカレンが受け取れば、もうカレンとは仕事をしない。
今後一切、カレンはあたしのクライアントにはならない。
『ダイキに回しておいて。彼が払うから』
『でき兼ねます。ご夫婦でない場合、お支払いはご契約者ご本人様の名義で頂戴するように契約書にも記載させていただいております』
『あたしが妊娠してるの忘れたの?今日はダイキにその話をするのよ。まだ結婚はしてなくても夫婦同然でしょ?今日婚約するわ』
『申し訳ございません。契約終了時点での関係を基準とさせていただいておりますので、カレンさんからのお支払いをお願いいたします』