第24章 ヴェラザノ・ナローズ・ブリッジ
まだ少しドキドキする心臓を落ち着けてラウンジに入ると、窓際にカレンが座っていて、控室で着替えたのかさらりとした綺麗なラインの白いワンピースだった
ホント綺麗な人
心底嫌いだけど彼女を見ずにはいられない程綺麗なことは紛れもない事実
ギャルソンですら彼女に気を取られてる。
有名なモデルだからっていうのもあるだろうけどそれだけじゃない。
沈んでいく夕日が当たる彼女は、なんの撮影でもない何気ない日常風景なのに、作られたみたいに芸術的な綺麗さだった。
『来たなら声掛けなさいよ。何ボサっとしてるの?』
『大変失礼いたしました』
資料を持って彼女の正面に座るとギャルソンが来てくれたから、ローズの香りのここでしか飲めない紅茶をアイスでオーダーした。
『ではさっそく、カレンさんのご希望イメージを教えてください』
『あなたはどう思う?朝デートするならどんなメイクをする?』
『朝でしたら一緒に朝食を摂ったり、ゆっくりコーヒーを楽しまれれる方が多いと思いますのでつややかな寝起きの肌をイメージして全体的に色は抑えめにします。ですが、向かい合う時間が多いことを考えますとまつげには若干の印象があった方がいいと思います。目を伏せていても目が合っていても、まつげが少し濡れているように見えるのは非常に魅力的であるという意見を男性クライアントから聞かせていただいたことがございます』
『…メイクのことになると本当にちゃんと話すのね』
相手を好きとか嫌いとかそんなことはどうでもいい。
シチュエーションにマッチしていてクライアントも納得するメイクを提供して満足してもらうことがあたしの使命。
『それがわたくしの仕事ですので、必要なことはしっかりとお伝えさせていただいております』
『あたしの要望はね、コーヒータイムじゃないわ。ベッドで2人でゆっくり過ごすなら、どんなメイクがいい?』
『では、肌は艶が出るようにしっかりとスキンケアをしてナイトパウダーだけを乗せます。ナイトパウダーは色は付きませんのでほぼ素肌のイメージですがふんわりとした質感になります。まつげはクリアマスカラで濡れた感じに仕上げて唇はパックをして水分が多めでべたつかないクリアなものを。とにかく色を使わないということで自然な美しさを引き出します』
『じゃ、そんな感じにして』
『承知いたしました』