第24章 ヴェラザノ・ナローズ・ブリッジ
「進藤、桃井、ちょっといい?」
撮影が順調だったお陰でできた午後の全体休憩
ほとんどの人が休憩の為に無駄に広いリビングに集まって、用意してもらった軽食を摂ったり、座って休んだり話したりして一見現場は和やかだったけど大ちゃんはそうじゃなかった
みさきはまだメイクのことをしてて、今聞いたところで何も話してはくれないだろうし、仕事の後に話を聞こうって美緒と話してる時にチーフに呼ばれた。
あたしとしては大ちゃんのあの不機嫌極まりない顔も気になったけど、チーフに呼ばれたら行かない訳にはいかない。
今日の撮影では使わない部屋に美緒と一緒に入ると、チーフが外の様子を伺ってからドアを閉めて、いつもよりも小声で昨日の大ちゃんの撮影の時のことを教えてくれた。
「それってみさきも当然見てたんですよね」
「そうよ。昨日の夜カレンさんから黒須さんがメイクしないなら外れるって言われて、頼んだらすんなり受けてくれたからこっちとしては助かってるけど、きっとすごく傷ついてるんだと思うのよね」
それは絶対傷ついてるし、大ちゃんのあの刺すような視線の意味もなんとなく分かった。
大ちゃんとみさきが付き合ってることを誰かがカレンにはっきり言った訳じゃなかったとしても、いつもよりあからさまじゃないにしても、あの大ちゃんの変わりようじゃ気づかない人なんて多分いない。
テツ君の言った通り、カレンは本気でみさきと大ちゃんと別れさせようとしてる。
でもきっとみさきは、仕事でどれだけ傷つくことがあっても絶対に投げ出したりしない
「それにカレンさんと青峰さんのヨリが戻ったみたいなことをスタッフが言ってたのをちょっと小耳に挟んだんだけど、あの二人ってどういう関係なの?黒須さんは仕事で知り得たことは話さないって教えてくれなかったけど、青峰さん二股ってこと?」
まぁそう思うよね。
大ちゃんなんてゴシップ大魔王だったし
あくまで“だった”だけど
みさきと知り合ってから、大ちゃんはこっちが唖然とするくらいみさき以外見えてないから全然いいけど、チーフに誤解させとくのもよくないし、あたしたちはカレンと大ちゃんのことを知ったのは仕事とは関係ないところだから言ったって問題ない。
「違います。大ちゃんの彼女はみさきだけです。カレンさんは元彼女です。元です。今は全く、まったく関係ないただの共演モデルです」