第24章 ヴェラザノ・ナローズ・ブリッジ
『明日メイクしてくれない?』
『仕上がりのご希望時間をお伺いできますでしょうか?』
『9時』
『大変申し訳ございません。明日のそのお時間はお受けすることができません』
カレンは明日はオフだけどあたしは仕事がある。
明日はペントハウスに宿泊客がいる関係で、ペントハウスでの撮影はできないから、黄瀬君とエマのメインカットのスタジオ撮影を午前中にすることになってる。
メインで担当するのは伊藤さんだけど、あたしだって現場には行かなきゃいけない。
『あら、撮影期間はあたしの専属でしょ?』
『そうですが、わたくしの契約先はあくまでメーカーです。中野チーフからの依頼でカレンさんのメイクをしておりますので、申し訳ございませんが、撮影時以外のメイクは、カレンさんご本人との個別契約をした上で業務遂行となります』
『そ、分かってはいたけど、報酬第一主義なのね』
『申し訳ございません。どのクライアントでもそのようにさせていただいておりますのでご理解をお願いいたします』
専属なのは中野チーフに言われてる撮影の時だけ。
契約以下の仕事は絶対にしないけど契約以上の仕事を強制されるいわれはない。
『何時なら空くの?』
『場所はどちらでしょうか?』
『プラザ』
『7時の仕上がりでしたらお受けすることが可能でございます』
8時にはあたしはスタジオに入らなくてはいけないから、どれだけ時間を融通したとしてもそれが限界。
『それでいいわ』
『それでは、後程仕上がりイメージのご相談とご契約をさせていただきますのでよろしくお願いいたします』
これほど気乗りしない仕事はない。
自分の好きな人と会う女の人をデートの為に仕上げるなんて、本当は断りたい。
だけど、意味もなく仕事を断って、カレンに無様な自分を見せることは絶対に嫌だった。
意地を張って私情を挟んだことは確かだった。
だけど受けた以上最高に仕上げる。
見た目はどうしたってカレンの方がいいし、敵わないなんて分かり切ってるけど仕事だけは負けない
プライベートのカレンだろうがモデルのカレンだろうが、あたしは自分自身の腕でカレンを最高に仕上げる