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最愛 【黒子のバスケ】

第23章 After the rain


『あたし、あっちでメイク直したいんだけど』

『リビングですか?』

『えぇ』


リビングはパットと青峰君が使ってるから、あたしとカレンは違う部屋に行こうと思ってた。

キスをしたことでヨレたリップを直して、腕についた青峰君のボディファンデを落とすの以外は通常のメイク直しでいいから、カレンはどこでもできるしリビングがいいならそれでも構わない

立ってウエストラインのメイクを直す青峰君の横に、迷うことなく座ったカレンのメイクを修正するためにブラシを手に取った。


『ねぇ…』

『何でしょうか?』

『さっきのキス、感想聞かせてくれる?』

『わたくしはメイクをすることが仕事ですので、撮影の情景に感想を持つことはございません』


さっきぐりぐりされた背中

今もわずかに残るその感覚が、あたしの仕事はメイクだと言ってくれている気がした。
あたしはメイクになりたくていろんな人の力を借りてここまできた。
パットにはまだ及ばないけどいずれ同じところまで辿り着くって決めてる。

どんな時でもクライアントを150%引き出すパットと同じところにあたしは立つ。



『じゃあ、個人的にはどう見えた?』

『わたくし個人の見解ですか?』

『そうよ』

『では、僭越ではございますがわたくし個人の意見を申し上げます。キスをすることで曖昧さは無くなり、コンセプト通りの広告とならない可能性があることを残念に思いました。このフレグランスは消費者に最後の筋書きを決めてもらうというところが最大の魅力であり売りです。そこをアクターが決めてしまうことは商品広告として成り立たないと感じました。ですが、最終的には当初の予定通りの広告になるので特に問題はないと思っています』


これはあたし個人が仕事として感じた意見
プライベートなこともあたしの心情も絶対に話さない


あのキスが今も脳裏に焼き付いていることも
泣きたくなるほどあのキスが嫌だったことも
今すぐ青峰君とペニンシュラに戻りたいことも


絶対に言わない



『っはぁー…だからそういうこと言ってるんじゃないって分からない?』

『申し訳ございません。リップを塗りますので一度口を閉じていただいてよろしいでしょうか』


ホテル側から許可が出てる撮影時間終了までもう時間がない。

時間があるなら別にいいけどそうじゃない時はおしゃべりの時間はない
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