第1章 視線の先
1年近く前、かつてのチームメイトであり渡米前にはなんだかんだと文句を言いながらも英語を教えてくれたヤツから連絡がきた。
(シーズンオフはいつからだ?)
(7月から9月くれぇ)
(帰国できる予定を教えてくれ)
(なんでだよ。仕事次第だけどオフ入って1週間くれぇしたら戻る)
(玲子と結婚するから式に来て欲しい。)
驚いた。あの緑間が結婚か
赤司の結婚式で付き合ってる女がいることを聞いた時も驚いたけど、まさか結婚するとはな。
(そうか。それなら仕事は調整するから決まり次第連絡くれ)
(正式に日程が決まったら早めに連絡する。ありがとうなのだよ)
(おぉ。おめでとう)
さすがにこっちに来てからは負け無しって訳にはいかねぇけど、ファイナルに出れることを想定して休みを伝えた。
7月から9月が休みとはいえ、トレーニングや自主練もあってずっと日本にはいられねぇし、スポンサー周りや商品PRの仕事もあるからどんなに長く見積もっても日本に居られるのは3週間が限度だ。
しかも日本に帰国したらしたで取材やらなんやらでたいして休んだ気にならねぇ。
あー…バスケ以外やりたくねぇ。
バスケ関係ならまだそれなりに楽しめるものの、そうじゃねぇ取材はマジでだりぃ。
訳わかんねぇ雑誌のインタビューは一番つまんねぇ。
そんなことを考えていると、愛犬のネロがエサの時間だと言わんばかりに器の前で伏せてこっちをチラチラ見てる。
元々ネロは俺の犬じゃなかった。
元カノがうちに置いていったから俺が飼うことになったけど、犬は好きだし何より俺になついていて可愛かったから迷わなかった。
忙しくて世話ができない時はアレックスに預かって貰ったりしてるけど、迎えに行った時に嬉しそうに尻尾をふる姿がすげぇかわいい。
女と違って自分の思い通りにならなくても泣きわめいたり怒ったりしない犬は俺にとって最高のパートナー。
バスケが仕事であると同時に一番好きなことでもある俺に“バスケとあたしどっちが大事なの?”なんて聞いた挙句、正直に答えるとだいたい女は消える。
だから去るものは追わない。
好きだと思ってないわけじゃねぇけど手放したくねぇとは思えねぇし、バスケの邪魔をされんなら俺とは合わねぇ
俺にとって一番大事なことはバスケ。
それはこれからも変わんねぇから俺は結婚とは無縁。
