第19章 甘い時間
撮影は徐々に服を着ていくことになっていて、次はソファ撮影で、デニムを履いた状態で撮影をするから、さっきほど緊張はしないけど全く緊張しないわけではない。
鎖骨のメイクはすごく顔が近いし、あたしの好きな青峰君のフェイスラインもばっちり視界に入る。
何十回も青峰君がクライアントだってことを自分に言い聞かせて筆と指を滑らせていく
「撮影の時と同じように少し上半身を前に倒して膝に腕を乗せてください」
「これでいいか?」
「はい」
撮影と同じ体勢を取ってもらったところで、もう一度影の入り方とライトの加減を見て微調整をして完成
「OKです」
「じゃあ撮影入りまーす‼‼」
さっきと同じように、カメラマンさんの指示で青峰君が少しずつ角度を変えながら、相変わらず色っぽい視線をカメラに向けて、シャッター音が鳴り響く
本当にかっこいい…
バスケでプレスが撮影するようなふとした瞬間の自然な感じもすごくかっこいいけど、こういう表情は作ってるって分かっててもかっこいい
「そこに好きな子がいるって思ってそのまま顔上げて‼」
「今のいい‼‼最高!」
今、目が合った…気がする
あたしはずっと青峰君を見てるからそう感じただけかもしれないけど、目が合った瞬間に一瞬だけ、あたしの大好きな優しい顔をしてくれたような気がする
シャッター音を遠くに聞きながら、青峰君を見つめ続けてると、ライアンに小さく声をかけられた。
『これほど順調な撮影は今までにない。付き人として君を指名したいくらいだ』
『心臓が持ちませんので、謹んでお断りさせていただきます』
『メイクもそうだが、表情も、ダイキをここまで引き出せるのは君でなければできない。女性ファンは確実に増えるが悪く捉えないでくれ』
『そんな…お褒めいただいて嬉しいですが、彼の素材あってこそです。それに、ファンがいるってことは最初から承知の上でした』
バスケファンでもそうじゃなくても青峰君にファンがいるってことは当然分かってた。
それでも青峰君と付き合いたかった。
『NYでも楽しみにしてるよ』
『せっかくオファーいただいたのにメイクができずにすみません。ですが、パトリックが完璧な仕上がりでカメラの前に送り出してくれますので期待していてください』