第5章 色褪せない想い
ラウンジは使えたけど、俺も青峰も行かずにみさきと話して搭乗時間を待った。
もう少しでまたしばらく会えなくなっちまうから、できるだけ話してたかった。
休暇を終えて帰る時はいつもそうしてる。
「お、サメジャンボ」
「あ!ホントだ。可愛い」
少し前、日本とハワイ間を往復する便の機体にサメと亀のデザインが出た。
日本の航空会社だけど、俺も青峰もその会社がスポンサーになってくれてるから乗ってはなくても知っていた。
機内も他の機体より可愛らしいカラーリングになってる。
「ハワイでだらけてー」
「ハワイなんて小学校の時行ったきりだな」
「俺行ったことねぇわ。小学生でハワイとか生意気だな」
「いや、国内旅行だわ」
俺もみさきもLAに住んでたから、確かに近くはねぇけどハワイは国内旅行だった。
青峰はこっちに来てから遊んでる時間なんて多分なかった。
アクティブになっても、こいつは誰よりも練習してる。
「黒須は?ハワイ行ったことあるか?」
「何度かあるんですけど、全部仕事だったので、リゾート感味わう余裕もなく過ぎ去りました」
「やっぱ火神は生意気小僧だな」
車でもそうだったけど、俺が何故か悪いやつみたいに仕立てあげられる。
みさきが笑って、青峰も笑って、なんだかんだ俺も笑って、搭乗まではあっという間だった。
多分青峰も同じな気がする。
誰といたって自分がこうしたいと思えばそうする青峰が、ラウンジじゃなくて、人目もある一般のエリアに居続けたのは多分みさきといたかったからだ。
搭乗のアナウンスが流れていつも通りみさきにハグをして、横目で青峰を見るとすげー嫌そうな顔をしてて、その不満気な顔にさっきの会話の仕返しが出来た感じがした。
これくらいいいだろ?
俺とみさきは幼馴染なんだから、これが俺らの普通なんだよってちょっとした優越感に浸ってた。
だから、この後自分が青峰と同じ顔をするなんて思ってもいなかった。