第18章 劣等感
「すき…だいき…大好き」
名前を呼ぶのはまだまだ恥ずかしくて人前では呼べないけど、二人の時にたまにちょっとだけ呼ぶ。
自分でもたどたどしいって分かってるから本当にたまにしか呼ばないけど、名前で呼んだ時青峰君がちょっとだけびっくりした顔をするのが好きで、その後にしてくれるキスがもっともっと好きで、それがご褒美みたいで呼ばずにはいられなくなってしまう。
「みさきに名前呼ばれんのすげぇ好き」
あたしも、名前呼ばれるの大好き。
聞き慣れた自分の名前が世界でいちばん特別に聞こえる瞬間だから
「もっかい呼べ」
「…恥ずかしい」
だけど改めて言われるとものすごく恥ずかしい。
呼びたくないんじゃない。むしろ呼びたいんだけど、なぜか言われるとすっごく恥ずかしい。
「あと1回だけでいい」
「やんッ‼……っ耳ダメッ」
信じられないくらい色っぽい声で言われて、それだけで腰の力が入らないのに、耳の軟骨を甘噛みされて思いっきり体をビクつかせて、すっごい変な声出しちゃった…
恥ずかしすぎる…
羞恥心でどんどん頭に血が上って真っ赤になっていくのが分かって、とてもじゃないけど名前を呼べないし顔も見れない。
「今の声…
すげぇ可愛い…」
恥ずかしすぎておかしくなりそうで、変な声の出所を押え込んで青峰君に顔を押し付けたのに今の言葉のせいでさらに羞恥心は増した。
「ヤダっ…違うの…」
何が違うのか全く意味不明。
でも違うの。
さっきの声はあたしじゃない
「違わねぇ」
「……忘れてッ」
「無理だな。お前のことで忘れられることなんてねぇよ」
確かに青峰君はすごく記憶力がいいのか、あたしと喋ったことをすっごくよく覚えててくれてるけど、これは忘れてほしい。
恥ずかしい…
「それに俺しか聞いてねぇんだから忘れなくていいだろ」
あのね、青峰君だから恥ずかしいの…
他の人だったらこんなに恥ずかしくないし、耳だって絶対触らせない。
「…青峰君だから…忘れてほしいのにっ」
「ヤダ」
意地悪
…でもあたしも青峰君のことは全部忘れたくないかも
だって記憶が飛んで青峰君とのことを思い出せなかったとき、すごく寂しかった。
新しい記憶でもいいって思う反面、大切な思い出を一緒に思い出せないことが苦しかった