第18章 劣等感
手際の良さが全然違う。
毎日毎日こうやって冷たいお水に触ってご飯作ってくれたんだよね。
寝る前にハンドケアするからね。
眠くなっちゃったらあたしがママの寝室まで行ってやるから気にしないでね。
隣で買ってきたアマダイを下処理するママの手際の良さは、きっとこれまでにずっとやってきたからで、すぐにできるようになることじゃないって分かってる。
だけど少しずつでもできるようになりたい。
「あたしもやりたい」
「お魚よ?触れるの?」
実はあたしは魚がちょっと怖い。
別に何か深い理由がある訳じゃないけど、中学時代に理科の授業で解剖をやらされた目の大きい魚が何日も夢に出てきて、水の中で追いかけまわされる夢を毎日見て、それが怖くて、死んだ魚の目が怖いからいつも切り身を買ってた。
「だって、できるようになりたい」
「じゃあまず頭を落としちゃえばいいわ」
それも怖いんだけど…
巨乳でもなく美人でもなくスタイルがいい訳でもなく…
取柄なんて何もないあたしを好きだって言ってくれる青峰君に、少しでも好きになってよかったと思ってもらえるようになりたい。
それに、あたしが帰国したら、ネロ君と一緒にあたしのマンションに泊まるって言ってくれたから、リハビリを頑張ってる青峰君にバランスが良くてママみたいにおいしいご飯を作りたい。
あたしも仕事の日もあるけど、いつもみたいなハードなスケジュールじゃなくて1日1件だけで長丁場になるのはまだできないから3.4時間くらいのメイクの仕事か雑誌の企画の仕事しかない。
だからリハビリをしてお料理を上手になるにはちょうどいい気がした。
ママが洗ってくれたもう1匹のアマダイを目の前のまな板に置くと、やっぱりあたしを見てる。
ママに言われたとおりにヒレから包丁を差し込んで深く切ると骨を切った感覚と音が聞こえて少し血が出た。
「ひえぇぇぇぇ‼‼‼こっち見てるー‼‼ごめんね‼食べないから‼‼ごめんね‼」
「みさき、もう死んでるんだから…綺麗に食べてあげなきゃ余計に失礼でしょ。ほら、落ち着いて。見られてないわ」
そう言われても…いま目が合ったもん‼
ママが自分のやってるお魚の頭をゴロンってシンクに落としてそっちの目もあたしを見てる。
「ぎゃーーーーー‼‼‼‼」
「みさき、お魚腐っちゃうでしょ‼」