第16章 愛しい体温
『俺、先に車戻ってるからハンナと話し終わったら連絡しろ。時間は気にしなくていい…』
大我が少し悲しそうにそう言って、あたしの返事を聞く前に背中を向けてエレベーターに乗り込んだ。
俯いて座るハンナの隣に座るとハンナが泣いていて、何も言わずに背中をさすることしかできなかった。
あたしが声をかけたことで辛い思いをさせてしまったんじゃないかって思わずにいられなかった。
『場所移さない?』
少しだけ落ち着いたハンナに声をかけると小さく頷いて立ち上がってくれた。
前は背筋を綺麗に伸ばして歩いていたのに、今は猫背に背中を丸めて下を向いて歩く姿は見ていられない程辛かった。
院内のカフェの一番奥にあるコーナー席に通してもらって、ハンナはミルクティーであたしはダージリンティーを注文してから、まだ少し泣いているハンナが話してくれるのを待った。
あたしもいつもこうして待ってもらった。
泣いているとき、辛いとき、しんどいとき、玲子先生も真太郎も大我もあたしを急かすことは一切なかった。
だからあたしもハンナが話してくれるまで待つことにした。
何も言わないまま紅茶を半分飲んだところで大きく息を吐いたハンナが話し始めてくれた。
『連絡、できなくてごめんね』
『そんなこと気にしないで』
『あたし…タイガが好きだった。撮影の時は特に好きってことじゃなかったけど、撮影が終わった後偶然タイガと会ってね…連絡を取るうちに優しいところにどうしようもなく惹かれたの。だけど試合もあるのに邪魔をしたらいけないって思って、すぐに気持ちを伝えることはできなかった。…シーズンオフに会ってもらえたらそこで言おうって思ってた…』
そうだったんだ…
距離を置きたいって言ったのは大我を嫌いだからじゃなかったんだ
『だけど、1月にジェシカが企画したプロモーションの現場で使った俳優がなぜかあたしを気に入って……番号を聞かれてるのをジェシカに見られたの。もちろん断ったわ。だけど怒った彼女に、スタジオでメイクさんが共演の女優さんのヘアチェンジの為に温めてたコテを押し付けられて…』
『そんなっ…そんなの犯罪じゃない。ハンナは何も悪くないのに』
ジェシカのあまりの身勝手さに怒りと腹立たしさが込み上げて、同時にハンナが可哀想すぎて涙がこぼれた