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最愛 【黒子のバスケ】

第16章 愛しい体温


side緑間


みさきの話し方は典型的な逆行性健忘の症状だった。


普段なら到底忘れてしまうような細かなことも覚えていてそれを理路整然と話してくれた。


『じゃあみさきが覚えてるのはそこまでということなのだな?』

『うん…』

『じゃあこれから3月から今日までの出来事を話すが、今回の件と関係することだけを話すぞ』

『うん』


俺の言葉に徐々に声が小さくなって表情には不安が浮かんでいるのが明らかだった。

玲子をみさきの隣に座らせて、玲子がみさきのカウンセリングをするときにやるように部屋を少し暗くした。



『3月にみさきは桃井と進藤と一緒にシカゴにNBAの試合を見に行った。火神の家に泊まった時右の太ももを痙攣したことで俺のところに電話が来た』


『やめて…その話はしないで…』


右の太もものことを話した直後、みさきは手を強く握って小さく震え始めた。


縋るような目線を向けてちらりと青峰を見るみさきのしぐさは、青峰に知られたくないと俺に訴えているのは明らかだった。

『みさきちゃん。ちょっと目を閉じれる?今からあたしの言うことをよく聞いてね』


玲子が俺に話を中断するように目配せをしてみさきの手を取ってゆっくり撫でながらそっと話しかけた


『その時火神君のおうちには青峰君もいて、みさきちゃんが痙攣をしたとき青峰君が火神君を呼んでくれたの。だから怖いことは何もないからね』


ゆっくりと深呼吸をさせてみさきを落ち着かせた玲子がうなずいたのを合図に続きを話した。


『4月にうちの病院で検査を受けた結果、太ももの中にかつての手術で残ったガーゼがあることが判明したが、日本での摘出は不可能でそれの摘出のためにみさきはここにきた。それが5月の下旬だ』

『うん…』

『摘出手術は18日前の6月4日に行われて、そこで大量の出血から一時心停止を起こした。命は何とか助かったが、今日まで目を覚まさず、目を覚ました今は3月から今日までの記憶がすっかりなくなってしまっている。逆行性健忘と言って新しい記憶の一部が抜け落ちてしまう症状だが、脳に異常はなかった。ストレスによる心因性の健忘とも違い原因は特定できていないが、記憶が戻ることもあれば戻らないこともある』

『戻るとしたらどれくらいで戻るの?』


『分からない。1時間後かもしれないが30年後かもしれない』
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