第16章 愛しい体温
side青峰
みさきが目を覚ましたことを喜ぶ暇もなくみさきは検査に連れていかれた。
そして戻ってきたみさきの言葉に俺を含めた全員が言葉を失った。
「はんそで……寒くないの?」
LAの6月が寒いわけがねぇのにみさきは当然のように俺たちを見てそう言った。
何月だと思ってるかは分からねぇけどみさきは今を冬だと思い込んでる気がした
さっき主治医と看護師を知らねぇって言ったことや、自分がどうして病院にいるのか理解してねぇこともそうだったけど、みさきは母親が懸念した通り記憶が抜け落ちてる。
「大丈夫よ。みさきは寒い?」
「あ、……きょうあったかい」
「検査疲れたでしょ。少し休みなさい」
「ぜんぜん。ねてただけ」
だけど手術の後一番心配だったのは、太ももに強い痛みを感じることでフラッシュバックやパニックを起こすんじゃねぇかってことだったから、20日近く意識が無くて痛みを強く感じなかったことは救いだった。
記憶なんて別になくなっちまってもまた作っていけばいい。
みさきが生きててくれんならそれだけで俺は満足だった。
意識が無かった時、意識が戻ってほしいと思わねぇわけじゃなかったけど、死なれるよりは何千倍もマシだった。
意識が戻ったなら、これ以上望むことはもう何もなかった。
「どっか痛ぇとこねぇか?」
「うーん…背中と肩かな。なんか筋肉痛みたいな感じなんだけどね…えっとね…真太郎がレントゲンのときに……肋骨が折れてるかもしれないからあんまり動くのはダメって言うの。あたし轢かれた?」
意識が戻って3時間。
検査結果を待つ間きょとんとした顔のみさきは、全く自分の状況を理解してねぇ
緑間にできるだけ動くなって言われたことを守るために目だけをくりくり動かして俺たちと会話をしてる。
意識が戻ってまだ時間がたってねぇせいか、のろのろと考えながら答えてるけど言ってることは伝わるし、ここにいる俺らのことはちゃんとそれぞれに誰が誰か区別してる
「そうじゃねぇよ。後で緑間が説明してくれる」
「うん。ねぇ青峰君…うで……どうしたの?」
目だけを動かすみさきの視線が俺の右腕で止まって、じっと見て心配そうに眉を下げた
腕のことが分からねぇんじゃ、きっとみさきは俺と付き合ってるってことも忘れちまってんだろうな…