第16章 愛しい体温
周りの音が聞こえなくなってどれくらい経ったんだろう…
「みさき…」
ふいにあたしの名前を呼ぶ大好きな人の声が聞こえた。
「…青峰君?」
姿は見えないけど確かに声は聞こえてくる。
「やっぱここだったんだな」
ここって?って思った瞬間周りに色がついて、ペニンシュラのあたしの大好きなカウチの上だった
「お前が寝てんなら絶対ぇここだと思った」
さっきまで姿は見えなかったのに今はすぐ近くにいて、優しく笑ってあたしの手をそっと撫でながら横に一緒に寝っ転がってくれた
「え…?」
「お前が全然起きねぇから起こしに来た。本当はお前が起きるまで待とうかと思ったんだけど、お前は待ってても起きて来ねぇだろ?だから迎えに来た」
長い腕であたしをぎゅっと抱きしめて、低くて優しい声で話してくれる青峰君は少し疲れてるように見えた
「あの…大丈夫?」
「あぁ」
そう言ったっきりあたしをきつく抱きしめたまま、規則正しく胸が動いて寝始めた
全然大丈夫じゃないじゃん…
あんなに体力のある青峰君がこんなにあっという間に寝ちゃうなんて、よっぽど疲労が溜まってるんだ…
青峰君が起きるまであたしもこのままここにいたい
ぐっすり寝てるはずなのに、あたしを抱きしめる腕だけは少しも緩まなくて、その圧迫感が心地よくてあたしも目を閉じた。
どうしてこの腕の中はこれほど落ち着くんだろう。
どうしてこの人はこんなにあったかいんだろう。
心地いい
安心する
ずっとこうしていたい
離れたくない
まるであたしの為のゆりかごのようだった。
全く疲労感はないのに深く深く眠っていたあたしの頬に触れる、くすぐったくて優しい感覚で口元がぴくぴくと動いてしまう。
「起きろよ」
あ、青峰君があたしの頬につんつんしてるんだ。
「…くすぐったいよ」
「起きたな」
「うん」
「もしお前がまだ戻る気になれねぇなら今日は無理にとは言わねぇ。けど戻ってもいいと思えんなら俺と来るか?」
聞かれてる意味がまるで分からなかった。
どこに戻るのかも、今日じゃないならいつ戻るのかも全く分からなかった。
でも一つだけ確かなことは
青峰君と離れたくないってことだった
「一緒に行く」