第16章 愛しい体温
みさきが手術室に入ってから9時間
手術室のランプが消えて看護師だけが出てきた。
奥に少しだけ見えたみさきは、生きてるのかそうじゃねぇのかすら知ることができなかった。
ただわかるのは、何も音が聞こえねぇってことだった。
『医師から説明がありますのでこちらでお待ちください』
もともと手術中はこの部屋で待つように言われてた。
だけど誰一人そこに入ろうとは思わなかった。
みさきが必死で戦ってる時に、呑気に部屋で座って待ってることなんて誰にもできなかった。
何度も震えるスマホはさつきと黄瀬だったけど、それに出れる余裕は俺にはなかった
深刻な顔で俺らを部屋に入れた看護師は、何の説明もなく部屋から出て行った。
誰も座らなかった。
ほとんど待たなかったはずなのにすげぇ長く待たされた気がして、扉が開いて緑間が見えた瞬間、思わず掴みかかってた。
緑間が悪いわけじゃねぇって思っても、最悪のことが頭を支配して、あいつに八つ当たりをすることしかできなかった。
「青峰君……話を聞こう」
みさきの父親が俺の手を緑間からゆっくり離させて、有無を言わせねぇ目線で俺と緑間の距離を取らせた
医者側と向かい合うように座って俺の正面は緑間だった。
俺が目線を逸らさなかったからか、あいつも俺から目線を外さなかった。
『まずは結果をお伝えします。
8時間57分でガーゼオーマ全摘出となりました』
意味わかんねぇよ…
生きてんのかそうじゃねぇのか言えよ
「つまり、完全摘出で手術は成功だ。取り残しはなく再発はない。そして、人工血管を使わずに摘出できたことで合併症のリスクもない。……みさきは生きている」
頭の悪い俺と火神に緑間が分かりやすく言い直してくれて、やっと理解できた。
緊張感はあるものの、最初の張り詰めた感じが和らぐと、執刀医が手術の経過を専門用語を挟まずに説明をしてくれた。
『肉芽腫が長期間存在したことで動脈が肉芽腫内まで延び、それを傷つけたことで大量の出血を引き起こしました。出血が多く出血した箇所を特定する間、急性の出血性ショックで心室細動から約3分間の心停止、後胸骨圧迫及び電気ショックにより蘇生しています』
『心停止の影響は…?』
全員が気になるそれを、いち早く聞いたのはみさきの母親だった