第16章 愛しい体温
side火神
「大好きだよ。だいき」
あいつの言ったこの言葉は俺たちにも聞こえてた。
それに、青峰がみさきに返した言葉も俺たち全員に聞こえてた。
幸せなはずの言葉は、これ以上ねぇ程切なかった。
手を振ったみさきが手術室に入って、予定してた6時間が過ぎた。
唐突に開いた扉から手術着を着たやつが飛び出してきて、俺たちに見向きもせずに走っていく。
それと同時に聞こえた音は、何よりも嫌な音だった。
「心停止…」
震えるおじさんの声が静かに響いた
「まだわかんねぇよ…」
認めたくなくてそれだけをやっと答えた
けど分かってる。
おじさんが、仕事柄この音を聞きなれてるってことも、みさきを生んだ時のおばさんが同じ状況だったから、聞き間違いなんかじゃねぇってことも…わかってた。
「みさき‼…みさき‼嫌よ‼あの子が…絶対ダメよそんなの!死ぬなんて…みさき‼みさき‼」
震えて泣きながらみさきの名前を叫ぶおばさんをおじさんが抱きしめて、おじさんも必死に涙をこらえてる
ばあちゃんも、顔を覆って嗚咽を漏らしながら必死に祈ってる
『神様、私が代わりになるから、キティは連れて行かないで…』
青峰は血管が浮き出るほど強く自分の手を強く握りしめて、目を閉じたまま祈るように小さくみさきの名前を繰り返してる
自分が術後で、腕に力を入れちゃいけねぇことなんて完全に忘れてる。
「青峰、腕…」
「…今そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ。みさきがいなきゃ……バスケやってる意味なんてねぇだろ」
これほど弱弱しい青峰は初めてだった
今まで自分の為だけにバスケをしてたはずの青峰が、いつの間にかバスケをみさきの為にやるようになってた。
「腕がダメになったら、みさきにバスケ見せれねぇだろ。あいつは絶対ぇ死なねぇ」
信じるしかなかった。
自分の願望を言葉にする以外、この恐怖を乗り切る方法がなかった。
泣きたかった。
けどおじさんも青峰も必死で堪えてんのに俺が泣く訳にいかなかった
「母さん…頼む。みさきを助けてくれ…」
「みさき……」
俺たち全員がみさきの名前を何度も呼んだ
「逝くなよ…まだお前に何もしてやれてねぇよ…まだ知り合ったばっかだろ…」
苦しそうに小さく絞り出すその独り言は震えてた