第16章 愛しい体温
『血圧80の65』
『吸引!』
血圧が下がり始めたことを知らせる麻酔科医の声で、助手がもう一名吸引に回った
二人での吸引にも追いつかないほどの速さで血液があふれ出し、術野をあっという間に鮮血が染める。
『出血点は?!』
『出血が多すぎて確認できません!』
『出血点を探せ』
『吸引間に合いません‼』
手術室に緊張が走り、麻酔科医がみさきの血圧の低下を何度も叫ぶ
落ち着け
落ち着くんだ
大量出血して出血点が特定できないとき
とにかく止血が最優先のとき
『全体を強く抑えて止血。V-A ECMOの準備を』
『何だと!?』
『この体格です。大量出血で循環を維持できなくなったら助かりません!』
とにかく止血して術野を確保して出血点を探す他方法はない。
その場しのぎでも、とにかく止血を最優先しなければ
『迷っている時間はありません。とにかく止血を‼』
俺がそういい終わると同時に、みさきにつながるモニターから命の危険を知らせる警告音が鳴り響く
『バイタル!』
『血圧50の42に低下!』
『出血1200超えてます!脈振れません』
『血圧測定不能!』
この勢いで出血してれば1200では全く足りない
どこだ…
どこから出血している
出血点が特定でないままただただ出血が増えて、吸引器の音が絶え間なく響き渡る空間に響く断続的な警告音が
一定の音に変わった
『アドレナリン!除細動190にチャージ!』
心停止だった
除細動器がチャージするまでの間、即座に胸骨の圧迫を開始した。
おそらく大量出血によるショック。
一刻も早く蘇生しなければ脳にも障害が残ってしまう
『190!ショックします!』
『離れろ!』
ドンッ____
ピーーーーーーーーー
『200!』
『離れて‼』
ドンッ_____
みさきの細い体がショックによって跳ね上がるが、それでも心拍は戻らない。
『出血コントロール出来ません』
『210だ‼ECMOに繋げ!』
「戻ってこい‼」
チャージができる間、絶え間なく胸骨の圧迫を必死にやってもモニターは無情なフラットを表示し続けた。
『離れて‼』
ドンッ_____
『チェック』
『反応無し!』
「死ぬな‼戻ってこい‼」