第16章 愛しい体温
ママが少し笑ってあたしの手を握ってくれた
「みさきの手はいつもあったかくて柔らかいのよね。メイクさんになるために生まれてきたような手だってパットも言ってたわ」
パットは仕事があって手術開始には間に合わないけど目が覚めたら会いましょうねって昨日メッセージをくれていた。
「ほんと?」
「そうよ。グランマだっていつもそう言ってるでしょ?」
おばあちゃんはあたしにすっごく甘い。
おばあちゃんにとって一人の孫だからなのかもしれないけど、とにかくあたしをいつも褒めて可愛がってくれた。
「そうだったかも。ケイトリンっていうのはおばあちゃんがつけてくれたんでしょ?」
「そうよ」
「どうしてケイトリンなの?」
ノヴェンブレが11月っていうのは知ってた。
ミドルネームを誕生月にするのは特に珍しいことじゃないから不思議に思ったことはなかったけど、どうしてミドルネームを2つにしたのか知らなかった。
「それはね…」
ママが何か言いかけた時、部屋の扉が開いて少し息の上がったおばあちゃんが入ってきた。
『キティ?』
『おばあちゃん!来てくれたの?』
『当たり前じゃない。道が混んでて間に合わないかと思ったわ』
弾むように呼吸をするおばあちゃんは、相変わらずグラマーであたしよりも背が高い。
「続きはグランマに聞きなさい」
そう言ってママがあたしとおばあちゃんを二人にしてくれた。
あの事があった後、毎日家に来てくれたおばあちゃんは、うまく歩けなくて八つ当たりするあたしをいつも優しく助けてくれた。
『何話してたの?』
『ケイトリンっておばあちゃんがつけてくれたでしょ?それの意味を聞いてたの』
『…司と泉はねずっと子供を欲しがってた。あなたで3度目の妊娠だったけど生まれてこれたのはあなただけ。そしてあなたを妊娠中も子供が小さめだってことを泉はずっと気にしてて、なるべく長くお腹にいてほしいと思ってたけど9か月に入る前に大量の出血を起こして生まざるを得なかった。自分の命だって危険なのに泉はずっと“赤ちゃんを助けて”って言い続けてたわ。…生まれてきたあなたは本当に小さくてね…』
早く生まれてきて生まれた時から小さかったってことは聞いてたけど、それ以外はすべて、初めて聞くことだった。