第5章 色褪せない想い
黄瀬君の撮影はイレギュラーがあった割には早く終えることができて、帰りの用意をしていると黄瀬君が声を掛けてくれた
「これで終わりなら送るっス。って言ってもマネージャーの車だけどね」
だいたいは自分の車で仕事に向かうけど、今日は目がむくんでいたから車内で冷やしたくてタクシーを使って来たから帰りもそのつもりだった。
だけど、本音を言えばタクシーの運転は荒くて怖いからあんまり好きじゃない
「いいの?」
「勿論っす。俺マネージャーに伝えてくるから先に裏回ってて」
「よろしくお願いします」
黄瀬君が出て行って、忘れ物がないか念入りにチェックして部屋を出た。
メイク道具は小物もたくさんあるけど、それぞれにきちんと役割を持っているから例え1つでも忘れれば次の現場に差し支える。
でもそれ以上にパットに言われた、道具はあなたの何倍も疲れているという言葉が私の中にあるから、きちんと家に持って帰らなきゃと思わせてくれる
乗せて行ってもらうのに待たせるわけにはいかなくて、控え室を出て急いで裏に回った。
黄瀬君は女性ファンがものすごく多くて、どこから情報が洩れるのか分からないけど、いわゆる出待ちの子がいて表から出れない。
ましてや仕事仲間といえど女の私と一緒に出たなんてことが知れたら…
さつきと美緒は信用してるし友達だから何でも話すけど、基本的に同業者やアクターとは一線を引いてる。
勿論尊敬してる人もいるけどプライベートは別
アメリカにいた頃、有名な女優のドラマの現場でパットのアシスタントをしていた時にその女優が共演俳優にかなりあからさまなアタックをしているのをみんな知っていた。
俳優さんには付き合ってる彼女がいて、駆け出しのモデルですごく綺麗な人だった
そして、俳優さんのスタイリストと仲良くなった女優さんが彼女のことを聞き出して暴漢に襲わせた
たまたま通りかかった人が間一髪で助けたから、体は捻挫とひじと頬を擦りむく軽傷で済んだけど決まっていたコレクションには出れなくて、心に傷を負って、せっかく掴んだチャンスも奪われてしまった
結局女優さんは傷害教唆で逮捕、ドラマは中止、現場は大混乱だった
だから例え控室で黄瀬君と2人だったとしても美緒の名前は絶対出さない。
誰が聞いてるか分からないから
周囲に人がいないことを確認して車に乗り込んだ。
