第5章 意外
「先輩〜?」
美術室を覗き、呼んでみるも、先輩はいないようだった。
「…あれ…?」
「おはよう」
突然、後ろから先輩が挨拶をしてきたのだった。
「うぉあ!びっくりした…先輩…こんにちは!」
「うん」
今日もたくさんお喋りするぞ、と意気込んでいたのも束の間。
「今日は帰る」
「ばいばい」
先輩はそう言って帰ろうとした。
「え、あ、ちょ、待ってくださいっ、俺、一緒に帰ってもいいっすか…?」
「別に」
先輩がこう言うときは、「どっちでも良いから好きにして」ってことだと最近わかった。
「やった、ありがとうございますっ!」
俺はそのまま先輩の後ろをついていく。
先輩は女性の中では身長が高い方だろう。
男性の中では平均より少し低い俺と同じぐらいだった。
「先輩、美術室に行かずに帰ることもあるんすね〜」
「今日だけ」
「え、そうなんすか?なんか、予定でもあるんすか?」
「別に」
予想に反した答えが返ってきて、俺は少し苦笑いをする。
「そうなんすか」
先輩らしいや。
ま、俺もまだまだ先輩のこと知らないんだけど。
そんなことを考えていると、珍しく、先輩から話しかけてきた。
「店行こう」
「…え?」
「店って…お店?っすか?」
そう訊くと、先輩は首を縦に振って、
「食べる」
と言った。
「食べる…っすか。良いっすね!」
食べるっていうことは、カフェとかファストフード店だろうか。
そう思って先輩について行くと、着いたのは、ラーメン屋だった。