第20章 バス停留所にて
「あ……えっと、実は……さっき家を飛び出してきました……親と初めてケンカして……進路のことで」
「家出?そんな軽装でか?」
荷物を何も持たぬ女子高校生は頷く。
「進路、か。どうすると話したんだ?」
まだ会って間もない彼女は、少し困惑した表情でハンカチを握り締めた。
「……小説家、に、なりたいんです」
「ほう」
「だけど、現実的じゃない、って。売れる迄に振るいにかけられて、有名になるのはほんのひと握りの特別な人間だけなんだ、って」
「御両親はどうすべきだと話されてるんだ?」
「……普通の人生を歩みなさい、って。公務員とか」
よくある話だ。
私は教員の父の元に育ったが、普通の会社員になりそれなりの地位に就いた。彼女の親が言うような普通の人生を歩んできた。結婚こそまだだが、そろそろ父の為にも結婚すべきなのかもしれない。一先ず相手を探さねばならないが。
チラリと横にいる彼女の胸元を見る。
彼女が好みそうな可愛らしい下着が透けたままだ。暫くご無沙汰な私のペニスは既に息を荒らげて前へ前へとスーツを押し上げて山を作っていた。
「……普通の人生を歩みなさい、」
「……!」
「……という、君の御両親は正しい。私は枠にハマった様な人生の歩み方しか知らない人間だが、君の夢への手助けをすることは出来る。いつかこの停留所での出来事を小説家になった時のネタにするといい」
この瞬間から私は、後に逮捕されたって構わないと考えていた。
この何の変哲もない、叶えたい夢も叶えられなかった、つまらない普通の人生に終止符を打って……“俺”は。
欲情のままに名も知らぬ女子高校生の肩を掴んでキスをする。雨で濡れた互いの唇は簡単に肌が吸い付き、水分で程よくふやけた柔肌が心地いい。
「っぷあ!!や、やだあ!だっ、誰か……誰かあ!」
「無駄だ、君がよく分かっているんじゃないのか?見た限りだがこの近くに民家は無い。この豪雨だし君の声は届きはしないよ」