第19章 林檎が落ちた
ユリアが高校生の時。
母親が死んだ。
母が死んだこの日は数十年ぶりの豪雨だった。
同じ日、ユリアは母親に秘密がバレた。
「何考えてるの……!?あなた……何してたの今……!!」
仕事で帰りが遅いと思われていた母が帰宅した。濡れたままの体でユリアの頬を叩いた母を、頬を抑えて睨む。
「お父さんの服……着て……枕に何してたの……!答えなさいユリア!!」
「……私、お父さんが好きなの。男として」
また頬を打たれる。
「何……言ってるの……?」
「お母さんには分かんないよ、お母さんはいいよね、ただの……女なんだから……!私はお父さんと結婚出来ない、だから私の気持ちなんて分かんないよ……!!」
ユリアは母を突き飛ばしてエルヴィンのワイシャツを母に投げ付けて走る。制服のままだったユリアはそのままローファーを履いて家を飛び出した。バタバタと母が追いかけて来る音が家から出る直前で聞こえた。
バレてしまった。もう、生きては行けない。きっと家族で話し合いになり、私は施設なりに入れられて縁を切られておわりだ。二度とあうことはできない、なら……いっそのこと。
死んでしまおう。
ユリアは走った。人のいない豪雨の中をひたすら走り、辿り着いたのはどうどうと音を立て、まるでこっちへ来いと引き寄せられる程の激しい波を立てる荒川。
ユリアは欄干に手を掛けた所で視界の隅に人を感じてそちらを見た。
「ユリア!!やめなさい!!」
叫ぶ声が辛うじて耳に入る。
「来ないで!!」