第19章 林檎が落ちた
エルヴィンの寝室。
元は母親も一緒に寝ていた、元、夫婦の寝室。
ユリアの自慰をする定番の場所。
足元が覚束無い。ユリアは自室で全ての衣服を取り払われ、初めて家の廊下を裸で移動した。自分でも分かる。陰部から次から次にいやらしい期待が溢れだしているのが。
手を引かれてベッドに座らされた。エルヴィンが離れていく。
クローゼットの前に歩き、止まった。
「ユリアは、この部屋によく入っていただろう」
「は、入ってない。用事が無いのに入らないよ、寝室なんて」
ギク、と体が固まった。
待って、やめて、まさか。
エルヴィンがクローゼットの上の扉を開く。扉に小さな穴があるのを確認した。
その場所にカメラが設置されている。
「そうか……お前じゃなかったか。ならば、週に何度も現れた女は誰だろうな。厭らしい女でな、俺の枕に顔を埋めたりしながら一人淫らな行為に及んでいた」
ポケットからスマートフォンを取り出して操作し、画面をこちらに向けた。
「これはその時の録画だ。見てご覧」
エルヴィンがユリアに手渡し、横にドカッと座る。
誰もいない寝室に、“女”が入ってくる。しばらくエルヴィンの枕に顔を埋めた後……自慰を始める。
顔が熱くなる。身体も。全て空気と溶けて存在がなくなったように全く感覚がない。ただ、汗だけがじわりと滲む感覚が残る。
耳元にエルヴィンが寄る。
「俺はここからが気に入ってるんだ」
画面の中の女は枕を抱き締めたままで謝りながら絶頂を迎えた。
エルヴィンがスマートフォンを取り上げてユリアを押し倒した。
「この女は、そうか……お前じゃなかったか。つい俺もこの録画で楽しんでしまったからな、そうか、違ったなら……」
まさか、あの日の……?スマートフォンを手に自慰をするエルヴィンが脳裏を過る。
「まあ、俺の事もこの画面の女ももういい。今はお前の事だな、自分を売女のように安売りしたお仕置きだ」
知らない男だ。あの自慰をする姿にも同じものを感じた。あの日の男が今目の前にいる。憧れた姿、嬉しい、堪らなく嬉しい。