第16章 君が知らないこと
ある年の冬。
「あなた、あなたユリア……!?」
手を繋ぎ歩く母子の背後から、中年だが派手な身なりの女が声を掛けた。
「……ユリアなんでしょ、こっちを見て」
その母子が振り向く。
母親の方は立派な女性へと成長したユリアだった。
子どもはユリアの面影もしっかりとある、凛々しい眉毛で端正な顔立ちの子ども。
「……やっぱり、ユリア……あんた、子どもが産まれたの?今……今20になったくらいじゃないの?なんで…… 」
何も答えないユリアに女は続けた。
「ねえ、突然居なくなって驚いたのよ。あの時は……その、母さんも若かったの、本当に後悔してる。ねえ、ユリア」
ユリアは呼び掛けに答えないまま、子どもを抱き上げて背を向けた。
「ま、待って!」
女、ユリアの母親はユリアの後を追う。
「ねえ、もう一度、家族としてやり直したいの、母さん……借金出来ちゃって、彼氏にも捨てられてさ、家も金も愛も全て失って分かった。子どもは本当に宝だって、母さんまだ借金もあるし、家も決まってないけど……改心した、だからもう一度……」
ユリアは足を止め、母親の方を振り向いた。
「……すみません。どちら様でしょうか」
それだけ言って、唖然とする母親をその場に残してユリアは去った。
その足で、駅へ向かう。
「……あ、パパーっ!」
ユリアと、抱かれた子どもはそう呼ばれた男に手を振る。
子どもの容姿によく似た、端正な顔立ちの男が駆け寄った。
「ただいま」
「ん、おかえり。エルヴィン」
夫婦は仲睦まじく子を真ん中にして手を繋ぎ、帰路に着く。
その姿は美しい、本当の幸せな家族そのものだった。
-第16章 END-