第1章 思い出
鬱蒼と茂る木々の下、銀時は藁草履の紐を結び直した。
「…って」
ささくれに藁が擦れ、顔をしかめる。
左の小指の爪先に少し血が滲んでいる。
舌先で舐めた。
血の味がする口の中でつぶやく。
「忘れちゃいねぇよ」
桂は、かぶき町を一人歩いていた。
角を曲がった所で、子供二人と出くわした。
顔が似ているから、兄弟だろうか。
八歳くらいの兄は両手でしっかりと何か包みを抱き、弟はその着物の端を掴んでいる。
「兄ちゃん、約束守ろうね」
「あぁ。絶対だ」
やけに真剣な表情で言い合う姿を見送り、桂は少し笑った。
「…約束か」
月の光が細く差し込む部屋で、高杉は静かに煙管を吹かした。
照らされる体には、真新しい包帯が目立っ。
煙管を煙草盆に乗せ、右手をそっと左胸に当てた。
鼓動を確かめるようになぞると、再び煙管を手に取る。
「忘れるわけがあるめぇよ」