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小さな恋のパフューム【黒尾鉄朗】

第1章 ローテンポだって悪くない




遂に訪れた、運命の一戦。


ヘビ野郎率いる戸美学園は、やっぱり強敵だった。執拗な攻撃に、客席も審判も味方につける戦法。
俺たちとは違うプレースタイル。

想像以上に苦戦する中、予期せぬアクシデントに見舞われる。


夜久が、怪我で退場。


コートを出て行く夜久の姿を見て思う。
あんな顔させたまま、終わりにできるかよ―――。


正直、夜久の不在は音駒にとって大打撃だ。
しかし焦る気持ちよりも、不思議と集中力が増していくような感覚がした。



主将として、音駒の一員として、今できる精一杯のプレーを―――。







結果は、音駒の勝利。




メンバー全員で獲りに行った"勝ち"だ。
この中の誰が欠けていても、掴めなかった勝利だと思う。



春高―――
行けるんだ、本当に。



コートを出て実感する。


もちろん、これで終わりじゃない。
ここからが本番。
全国の舞台も、烏野との『ゴミ捨て場の決戦』の約束も、ここから―――。


それでもやっとこの地点に立てたことに、湧き上がる喜びを自覚せずにはいられなかった。







「おーっし!着替えて軽くミーティング済んだら今日はここで解散な。あ、更衣室で他校と揉めるなよー、山本」


「うぇ!?俺だけっスか!?」


はい、お前だけね。
前科あり過ぎだからね、このモヒカンは。


一番血の気の多い後輩に釘を刺し、顔を洗うために更衣室から離れる。





手洗い場に向かう途中の、階段に差し掛かった時だった。
その声が耳に入ってきたのは。




「あの…本当に困ります…!」


「いいじゃーん!デートしよ、なんて言ってないよ?君のオトモダチも誘ってみんなで遊びに行こうよ。ね?だから連絡先、教えて!」


「わたし、オトモダチいないんで!いつもボッチなんでっ!!」



ナニナニ、ナンパ?
バレーの試合会場で?
何しに来てんだよ、こいつは。


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