第1章 ローテンポだって悪くない
お互い鞄を持ち、隣に並ぶ。
「じゃあボディーガード、よろしくね」
「承知しました。お嬢様」
「行きますわよ、黒尾」
「乗るねぇ~」
ボディーガードとお嬢様ごっこなんかしつつ、他愛もないお喋りをしながら俺たちは駅に向かって歩き出した。
日暮れのこの時間、外はもう寒い。
肩をすくめながら歩いていると、俺たちの進行方向には一組のカップルが見えた。
うちの学校の生徒だ。
見かけねぇ顔だから、たぶん一年か二年だろう。
手を繋いで、肩を寄せながら仲良さそうに笑っている。
あんな風になれたらいいよな…。
天宮を好きになってからだ。
目につくカップルを見て、こんなこと思うようになったのは。
天宮に彼氏いないことはリサーチ済み。
卒業までに告白できたら、とも思ってる。
でも今は、春高に集中しねぇと…だよな。
「春高予選、勝ち進んでるんだよね?」
俺の心の声が聞こえていたかのように、天宮はそれを話題にする。
「ああ、夜久に聞いた?」
「うん。それで…あの、ね。夜っ久んが教えてくれたんだけど…」
「…なに?」
……何だ何だ!?
もしかして、俺の気持ちうっかり喋っちゃったとか!?
あいつせっかちだし!大いに有り得る!!
「えっと…、あ、そう。次の試合に勝ったら、春高出場が決まるって聞いて」
……ああ、そのことね…。
内心ホッとする。
いくら何でも、人づてに知って欲しくはない。
「次はヤラシイ奴らが相手だから苦戦するだろうけど。でも、ぜってー勝つ。んで、春高行く!」
「うん、頑張ってね。応援してる!」
「おう、サンキュー」
恋する高校生男子ってのは単純だ。
天宮がくれた "頑張れ" のひと言で、実力以上のものが出せそうな気がしてきた。
三位決定戦は、11月17日。
奇しくもその日は、俺の誕生日。
必ず勝ち残って、天宮に勝利の報告をするんだ。