第3章 柔らかさとまっすぐ
「あの、張り紙をみて…」
おどおどと話し始める私に、キュッと目を細めて笑いかける男性。不覚にもドキッとしてしまう。
店主「アルバイトの面接にきてくださってのですね?」
優しく穏やかな声に安心して、目を合わせるものの、ビー玉のような目に吸い込まれそうになる。
「そうです。よろしくお願いします。」
ふと頭を下げて思う。どうしてこんな急にバイトの面接にきちゃったんだろ。いつもの自分なら入念に下調べをしていくはずなのに。なんだか私が私じゃないような気分になり、胸がキュッとなる。
店主「そんな緊張なさらないで下さい。どうぞお茶でも飲んでゆっくり話しましょう。」
くるっと店主は振り返り、柔らかい足取りでカウンターの方へ歩いていった。私も、遅れを取らないよう後ろから着いて行く。
店内は落ち着いた雰囲気で、カウンターとテーブル席があり、真ん中にある大きな柱には植物のツルが巻きついている。こじんまりとした温かみを感じるお店だ。
店主「さぁ、おかけになって。せっかくですし、なにかお飲み物をいれましょう。なにがよろしいですか?」
「あ、ホットコーヒーで。ありがとうございます。」
スカートがシワにならないよう、気をつけながらイスに座る。顔を上げると、店主が本格的なサイフォンでコーヒを淹れている。眼差しは真剣なのに、口角が綺麗に上がっており、思わず見とれてしまった。
店主「実はこのお店、秘密があるんです。」
目を丸くした私に、ニコニコと満足げに、店主は話し始める。ドリップ中のコーヒーの音が店内に静かに響いた。