第3章 感動の、再会?
憧れの学び舎。その正門前に、九十九は静かに立っていた。緊張に引き攣った顔の、その口元だけが楽しげに弧を描いている。肺いっぱいに吸い込んだ朝の空気はぴりりと冷たく、身が引き締まる。九十九は口から大きく息を吐いて肺を解すと、校門の脇に立てかけられた「入学試験会場」と書かれた看板に向かって拳を突き出した。
「っしゃ、頑張るぞ!」
この一年間死ぬ程頑張ったんだ、ここに来るために。
正門の向こうでは、近未来的な作りのガラス張りの校舎が陽の光を浴びてつやつやと真新しく輝いている。努力の甲斐あって、筆記試験はなんとか無事に突破できたが、問題は今日行われる実技試験だ。腰に巻きつけたオールマイトカラーのポーチがもぞもぞと胎動する。ファスナーの隙間からひょっこりと顔を覗かせたウサギのヌイグルミが、慣れた手つきで学ランをするすると這い上がり、九十九の肩口にちょこんと腰を降ろした。頬に添えられた右手の柔らかさに、ぐっと気を引き締める。
「うん、行ける。というか絶対行く!」
「......きゅうちゃん?」
ふと、すぐ近くから自分の名前が聞こえたような気がして、九十九は慌てて辺りを見回した。緊張した面持ちの受験生たちが、次々と正門を潜っていく。
気のせいだったかな。もしかして幻聴?そりゃいかんね!耳鼻科行こう!予定を入れておこうとスマホに手を伸ばすと、その手を誰かに力強く握りこまれた。
「きゅうちゃん!やっぱりそうだ!うわぁ、何年ぶりだろう!君も雄英受けるんだね。お互い頑張ろうね!」
緑色のふわふわとした髪の少年が、その大きな瞳を細めて嬉しそうに笑っている。握られた手は激しく上下に振られて今にも千切れて飛んで行きそうだ。目の前の少年の顔と手を交互に見つめていた九十九は、次の瞬間パッと破顔して彼に飛びついた。
「い、出久~~~~~~!!!!!」
九十九を抱きとめてよろけた少年が、仰け反りながらもなんとかその場に踏みとどまる。
「ちょ、ちょっと待って苦しい」