第11章 かまってよ、カピバラ様
「何を」
「何って、命令!負けた方がお願い事聞くって言ったじゃんか!もしかして忘れてた!?」
轟はしばらくの沈黙の後、「ああ」と静かに呟いた。反応がどこかワンテンポ遅れているというか、マイペースというか。
「忘れてた。考えとく」
「おいおい、焦らすなよ。ドキドキしちゃうだろ」
結局、その日の下校時刻になっても、轟からのお願いを聞くことはなかった。また忘れているような気がしなくもないが、無理難題を言われても困るので、このまま放置しておくことにした。掴みどろこがないやつだけど、嫌なやつではない。なんというか、カピバラみたいなやつだ、轟は。もさもさ葉っぱとか食べてそう。マイペースに。紅白模様のカピバラが温泉に浸かっているところを想像していると突然轟が振り返ったので危うく吹き出すところだった。
「んぐっふ」
「おい、プリント」
「ああ、ごめ……っありがとう」
ダメだ顔を直視できない。震える手でプリントを受け取ると、轟が不思議そうな顔で、いや、いつもと同じ無表情でじっとこちらを見つめてきた。
「顔がすげぇことになってんぞ」
「元からだからこれは」
「そうか」
華麗なるスルースキルを見せつけられて、今度こそ笑いが抑えきれなかった。ちょっと心配してたけど、なんとかやっていけそうだ。出久、飯田、麗日に連れ立って下校しながら、たわいもない会話をしたりして、怒涛の高校生活初日は、緩やかに幕を閉じたのたっだ。