第8章 先生、幼馴染たちの仲が悪いです
「出久、個性発現したのか?いつ?どんな個性?」
「えーっと、それは……ある日突然発現して、えっと、パワー系、みたいな」
ぐいぐい詰め寄ってくる九十九を、出久が両手で押し返す。その傍を、現在50m走を測定中の蛙水と飯田が猛スピードで横切っていく。
「飯田3秒04!蛙水5秒58!」
「は?3秒て。3秒???50mを?速すぎるわ爆速眼鏡君」
「飯田君の個性、エンジンだって。かっこいいよね」
「はあ~、最高に50m走向きの個性だな」
出久が汗を拭いながら小さく息を吐いた。次は麗日と尾白のペアだ。入学式のときに出久を浮かせたことから考えるに、麗日の個性は重力を操作するタイプのものだろう。ぺたぺたと自分に触れているところを見ると、触れたものに限定して個性を発動させるタイプなのだろうか。それなら、おれと一緒だ!かわいい子との共通点はテンションが上がる。出久もそばかすの散った頬を微かに赤く染めて麗日を眺めている。
ピッ!と笛の音が鳴ったと同時に二人が走り出した。尾白は尻尾を器用に操って、まるでトランポリンで跳ねているかのように軽やかに進んでいく。今度モフらせてもらえないか頼んでみよう。
個性使用可の50m走は圧巻だった。もちろんテスト向きではない個性の人は普通に走っていたが、ほとんどの人が個性を活かして自己ベスト記録を叩きだしていた。
「お、次は轟か」
一瞬何が起こったのか理解できなかった。笛の音が聞こえた瞬間、微かな冷気に触れたような気がしたと思ったら、涼やかな音を立ててコース上に氷の道が出現した。その上を滑走して、彼はあっという間にゴールしてしまった。グラウンドに現れた氷の道は、彼の手を離れた後も太陽の光を受けて幻想的な輝きを放っている。春の最中に現れたその光景は、思わず見とれてしまう程に美しかった。