第6章 未知との遭遇、初日から
「轟って君?」
ちらりと一瞥をくれただけで、彼は直ぐに視線を逸らしてしまった。初日だし、緊張しているんだろうか。左右で紅白に別れた髪の色が大変にめでたい感じの轟は、顔の整い方が尋常ではなかった。そう言えば、勝己も黙っていたらイケメンだったな。性格がアレだから忘れがちだけれども。
「後ろの席の九十九です。どうぞよろしく」
「ああ」
気のないお返事だ。ううん、どうやってお友達になろうかな。先ずは無難に好きなヒーローの話題を振ってみるか。始業のチャイムが鳴る中で、九十九は静かに燃えていた。
「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここは…ヒーロー科だぞ」
前の方から聞こえてきた声は、新学期の朝に似合わず恐ろしい程に気怠げだった。寝袋が喋っている…?芋虫の個性か?と思っていたらその妙な生き物は寝袋を脱ぎながらむくりと体を起こした。
「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」
「なんか先生っぽいこと言い出した……」
先生じゃなかったらただの不審者だし、きっと先生なんだろうけれども。何を担当している人なんだろうか。理科?理科っぽい?いや、大穴で音楽とか。ちらりと出久の方を見ると、彼も驚いた顔をしていた。もしあの寝袋の人がヒーローだったら出久はもっとこう、はわわ///みたいな反応をするはずだ。なんて言ったって出久は重度のヒーローオタクだ。それが反応しないとなると、彼はプロヒーローではない?いやしかし雄英の先生は全員プロヒーローのはず。出久が知らないプロヒーローってこの世に存在するのか?一体誰なんだあの人は。
「担任の相澤消太だ。よろしくね」
「担任!?」
呆気にとられるクラスメイトたちに体操服を着てグラウンドへ集合するように指示を出すと、彼は現れたときと同じようにふらりと教室から出て行った。