第6章 未知との遭遇、初日から
春、それは新生活の始まり。家から元気よく飛び出した九十九は、その勢いのまま電車に飛び乗り、勢い余りすぎて二駅程乗り過ごした。かなり余裕をもって家を出たはずだが、その後も泣いている子どもを交番へ送り届けたり、観光客に道案内をしたりしていたら時間ぎりぎりになってしまった。
時刻は8:15を回っている。犯罪に巻き込まれて初日から欠席にならなかっただけ良しとしよう。
ホームルームが始まるのは8:25からだ。残された時間は後10分。正門を駆け足で潜って教室の案内表示を探す。
えーと、おれの教室は1Aだから、こっちの建物か。人の疎らな敷地内を、下駄箱目指して一直線に駆け抜ける。自分の名前はすぐに見つかった。八木だから並びの一番最後だ。分かりやすい。下駄箱の前でガッツポーズをしながら、九十九は壁に張り出された地図で1Aの教室を確認した。この角を右に曲がって、階段を登って……指を差しながら道順を確認していると、突然目の前の壁に人の顔が現れた。
「迷子かな?」
「う、うおおおおあああああ!!!??」
絶叫して飛び退った九十九を見ても全く動じることなく、壁に現れた顔はニコニコと人好きのする顔で笑っている。
「ビックリしたよね!!?悪いことをしたぁーーー!!アハハハハ!!ビックリすると思ってやってるんだけどね!!」
なんなんだこれは。周りに助けを求めようと辺りを見回したが、時間が時間なだけに人っ子一人見当たらない。これはこの学校では普通の光景なのか?廊下いっぱいに高らかに響き渡る笑い声を聞きながら、九十九はふらりと一歩下がった。
「しょ、初日から雄英七不思議的なものに遭遇してしまった……」
「アハハハハ!!新学期早々雄英七不思議になってしまった!!後で環に自慢してやろう」
「あの……さぞや名のある幽霊とお見受け致しますが、貴殿と意思疎通することは可能でしょうか?」
「可能か不可能かで言うとギリ可能って感じだよね。あ」
言葉の途中で壁に溶け込むようにして消えてしまった幽霊にギョッとする。慌てて壁を触って確かめるが、もうなんの変哲もないただの壁にしか見えなかった。
「なんだったんだ……」