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《ヒロアカ》夢みるタマゴと春の唄

第1章 プロローグ


エーデルワイスが満開を迎えた石造りの花壇の傍で、小さな子どもが一人蹲っている。

鮮烈な緑の髪の毛を揺らして泣きじゃくるその子どもに何か声を掛けねばと思うものの、開いた口からは何の音も出てきやしなかった。

手の甲で涙を拭ってゆるゆると顔を上げた子どもの顔には確かに見覚えがあるような気がするのに、誰だったのかまるで思い出せない。そのことに酷く動揺する。

この子はどうして泣いているんだ。一体何があった。彼は誰だ。どうして声が出ないんだ。

ざわつく心中を察したのか、星屑が散った翡翠の瞳が不安げに揺れて、ほろほろと大粒の涙が零れ落ちていく。傍に咲く儚げな花々と相まってまるで花の妖精のようだった。

「おれが追い払ってやったから、もう大丈夫だ。おい、泣いてんじゃねぇよ」

突然地面に影が差して、振り返る前に肩を掴まれた。傷だらけの小さな男の子が、こちらに向かってボロボロのヌイグルミを差し出している。所々綿が飛び出したウサギのヌイグルミが、彼の手の中でぐったりと横たわっていた。スンと鼻を鳴らした彼の目にも、薄らと涙が溜まっている。

「ぬ、ぬいぐるみ、取り返してくれたんだ」

そう言って更に泣き出した若草色の少年の頭を、赤いダリアの瞳の少年が思い切り叩いた。

「泣くなっつってんだろ!九十九、お前も突っ立ってねぇでなんとかしろ!」

乱暴に押し付けられたヌイグルミに指先が触れた瞬間、それは起こった。
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