第1章 悪魔のより糸は解けない
「おれ、遭難するのは初めてだ」
ずぶ濡れでイライラしながら砂浜を行ったり来たりする私に、サボ君が笑いながらそう言った。トレードマークのシルクハットは、今はサボ君のお腹の上に乗せられて日光浴をしている。当の本人はと言えば、砂浜の上に寝転んで、両手を枕にしてゆったりと寛いでいた。足なんか組んじゃってまあ。ふわふわとした金色の髪が、太陽の光をもろに反射して目に痛い。
「私もだよ!サボ君なんでそんなに余裕なの!?」
この状況をわかっているのだろうか。連絡手段もなく、無人島に二人きり。本部に連絡も取れないし、助けを呼ぶこともできない。これも全部サボ君のせいだ。ことの始まりは一時間ほど前、任務が終わって船で帰る途中、船首に座ってのんきに釣りを楽しんでいたサボ君は、あろうことか海に転落した。これが革命軍の№2だなんて思いたくない。いつもは真面目で頼りになるのに、たまにこういうよくわからないところでヘマをやらかすのだ、この男は。しかも、サボ君は先日能力者になってしまったので泳げないのだ。仕方なく私が飛び込んで助けたのはいいものの、サボ君を連れて海面に顔を出してみると、船は既に遠く離れてしまっていた。仕方なく、それはもう重い荷物を抱えて必死に泳いで、近くに見えたこの島まできたのだけれど、なんと、たどり着いたのは無人島だった。
砂浜にぐるりと囲まれたこの無人島は、ドーナツのように中央部だけ森になっている。ざっと歩いてみた感じ、この島の大きさは直径1kmくらいだろうか。森からは時折よくわからない獣のうめき声が聞こえてくる。絶対森には入りたくない。この辺は大きな島もなくて船も滅多に通らない海域だし、このままでは本当に命の危機だ。任務の報告書だけ先に送ってしまっていたので、本部がすぐに捜索隊を出してくれる可能性は低いだろう。仕事さえきっちりこなしていれば、基本的に私生活には触れないのがうちの組織のいいところだ。でも今回だけは、今回だけは介入してきてほしい。ここまで迎えに来てほしい。