第34章 戦雲立ち 戦火拡大
「退けーーっっ!」
自ら立った最前で、その号令を出した家康自身も、
苦渋に満ちた顔をしながら、馬を後退させる。
「無駄死には無用だ!退けーっ‼︎」
雑兵、歩兵を前列から遠ざける間、
家康は馬をジリジリと後退させながらも、
敵陣へはけして背を向けなかった。
バサッッ
荒々しく天幕の入口の垂れ幕を払い入ると、
ドンッ!
机に激しく拳を叩きつける。
「クッッ……」
机に手を突き、悔しそうな声をひとつ漏らす。
(この俺が…退却………
まだ、こんなにも弱いのかッ⁉︎)
自分の指揮の元に多くの兵が命を落とした。
守れなかった命。
(あの頃と、変わらないのかっ!)
数で劣っている所為だと思っていても、
悔しくて、歯痒くて、やるせなかった。