第30章 花顔涙咲
(信長様は瑠璃が特訓してたのを見ていたってのか?)
要は、競技会での信長の射駆けの提案は、
思いつきでもなければ、偶然でもない。
毎日、家康の処で瑠璃が、弓馬術の特訓していた事を、全て知っていて提案した、という事だ。
(…まったく…ヤラレタな…)
政宗は内心で 降参した。
その信長は、当たり前のような表情で
「だからこそ見せてやりたかったのだ。
ささやかな、親心と思え」
雄悠として笑った。
「まぁ…披露する場を与えて頂き、感謝致します」
瑠璃 歯咲※。
「毎日 楽しませてもらったが、もう しないのか」
「でしたら、信長様を的に、練習を…」
「良かろう。お前の放った矢、全て 叩き落としてやろう」
鉄扇を振り下ろす仕草で吹呵※(ふいか)した。
※歯咲(ししょう)…歯を見せて笑う。嘲りを含んだ笑。
※吹呵…息を吐くほど軽く笑う。