第30章 花顔涙咲
「信長様」
「何だ」
呼びかけて瑠璃は天主内を見渡している。
「そこからの眺望は素晴らしいのでしょうね」
廻縁の向こうに見える青空の彼方を見ながら、
のんびりやんわりとした口調で言って笑う。
「それに南蛮渡来の遠眼鏡なら遠くまでよく見えるでしょう」
標高約196mの安土山の上、約35mの城が立つ。
6階外は全面に廻縁(まわりえん)と言う張り出しの縁側が作られている。
信長はよくそこに立って外を眺めていた。
「民衆が何をして、何か不足しているのかを見るのも、信長様の役目ですわ」
「ほぉ、貴様、政り事に興味があるのか」
緋い瞳がキラキラと童子のように輝いて、
愉しそうだ。
それなのに、
「何を言いたい」
シラッと流す信長。
「何の事だ?瑠璃」
本気で解らない政宗も問う。